「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用(不信感)」。企業であれ、スポーツチームであれ、リーダーであればドロドロした人間関係を避けては通れない。組織を支配するこれらの要素に着目し、心理学から脳科学、集団力学まで、世界最先端の研究を基に「リーダーシップと職場の人間関係」を科学的な視点でひもといた画期的な1冊が『武器としての組織心理学』だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。
人間関係の悪い職場は効率が悪い
人間関係が崩壊した職場でいい仕事などできるわけがありません。
なぜなら、仕事は誰かのニーズがあってはじめて生まれ、それに応えようとして営まれるものだからです。
一定レベルの良好な人間関係が維持されていなければ、より良い成果を期待することはできません。
データによれば、関係性悪化・崩壊を経験することによって、自分の仕事遂行が低下/非常に低下したという部下は半数近くを占め、同じ部署の人の仕事に悪い/非常に悪い影響が及ぶという人は6割を超えます。[1]
そこで組織で働く人、特にリーダーの立場にある人が知っておかなければならないのは、関係性の悪化や崩壊を感じている人たちの心理です。
たった一度の利己的な行動で信頼を失う
20代から60代の働く男女を対象に、インターネット調査を行いました。
回答者には、上司または部下を1人思い浮かべてもらい、「信頼関係がどのように変化したか」について、信頼の程度を点数で評価し、その推移を回答してもらいました。[2]
調査の結果わかったことは、信頼関係が低下したケースの半数以上が、「出会った頃の信頼関係をしばらく維持していたのに、ある日(の出来事)を境に急激に悪化した」という点数の変化だったのです。
さらに多くの場合、一緒に年間の仕事をひと通りやり終えて、お互いの人となりも分かってきた頃に、信頼関係が崩れる出来事が起きていました。
「裏で批判」の大きなインパクト
この調査では、信頼関係崩壊の発端となった出来事の内容についても回答してもらいました。
信頼崩壊の発端の多くが、相手に対する極めて攻撃的で陰湿、辛辣な言動によることを示していました。
例えば、その一つは、「ある日、裏で批判めいたことを言っていたと人づてに聞いた」というものです。
それを耳にしてしまった日を境に、関係性が崩壊したという内容は、上司、部下を問わず挙がっています。
ちなみに、これは「ウィンザー効果」と言って、面と向かって批判されるよりも、第三者を通じて悪口を聞く方が、インパクトが強くなることがあるので要注意です。
なぜ、第三者の言葉の方を信じてしまうのか不思議な話です。
でも、私たちが常に相手との関係は大丈夫か、信頼に足る相手かなどと日々探っていることの反映だと考えれば、説明はつきそうです。
人の気持ちや関係性は移ろいやすくもろいということなのでしょう。
そして、第三者は、あたかも自分たちを客観的に判定してくれる存在で、その第三者からお墨付きをもらえれば安心し、そうでなければ、またさらに念入りな探索を始めようとするのでしょう(このような心理的な作用があるからこそ、ネット通販のレビュー機能が成り立っているのかもしれません)。
いずれにしても、私たちの言葉は、自分が思っているより良くも悪くも影響力があり、思いがけない危険をはらんだものでありそうです。
脚注[1]山浦一保 (2013). 上司-部下の崩壊した信頼関係の修復に関する研究(Ⅱ)-効果的な対処行動の選択を促進する条件-. 産業・組織心理学会第29回大会.
[2]山浦一保 (2013). 上司-部下の崩壊した信頼関係の修復に関する研究(Ⅰ)-関係性の認知と対処行動との関連-. 日本社会心理学会第54回大会.
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)