「職場の雰囲気が悪い」「上下関係がうまくいかない」「チームの生産性が上がらない」。こうした組織の人間関係の問題を、心理学、脳科学、集団力学など世界最先端の研究で解き明かした『武器としての組織心理学』が発売された。著者は、福知山脱線事故直後のJR西日本や経営破綻直後のJALをはじめ、数多くの組織調査を現場で実施してきた立命館大学の山浦一保教授だ。20年以上におよぶ研究活動にもとづき、組織に蔓延する「妬み」「温度差」「不満」「権力」「不信感」といったネガティブな感情を解き明かした画期的な1冊だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。
妬みを抱えた人ほどスマホを手放せない
妬みを抱える人の苦しみと健康上の危険性にも目を向けておきます。
ここで紹介するのは、中国の中学生を対象にした調査研究の結果です。
妬みの感情は、周囲に被害をもたらすだけでなく、本人の健康面においても深刻な事態を招く引き金になると警笛を鳴らしています。
妬み傾向の強い人が、クラスメイトどうしの関係性が良くないクラスに入ると、
「もしかしたら、自分がいない間にクラスの誰かが何かご褒美をもらっているのではないか。あの人だけいい目にあっているのではないか」
と、疑心暗鬼になる傾向が強まります。
自分だけが好機を逃してしまうのではないかという恐れや不安が高まった結果、妬みを抱きやすい人は、スマホを手放すことができず、常にスマホをいじってしまう傾向が高いことが報告されました。
スマホによるソーシャルメディアの過剰使用は、諸問題を引き起こす可能性があります。
例えば、対面での交流の劣化、躁うつ病などの感情障害、睡眠の問題、身体的な健康上の問題の発症などです。
この研究結果では、クラスメイト同士の関係性が良い集団であれば、妬みやすい人の問題行動が抑制されることも示されています。
妬みは人と関わらなければ、感じなくて済む心の痛みや乱れですが、私たちが社会で生きて、組織に所属し活動する以上、人間関係を避けることができません。
だからこそ妬みの感情は、組織で働く私たちにとって非常に厄介なものなのです。
こうして見てくると、2つの疑問が生じます。
1つは、このような不利益をもたらす感情を、どうして人間は捨てきれずに持ち続けているのかという疑問です。
もう1つは、妬みをうまくマネジメントし、前向きな人間関係を築くことはできないのかという疑問です。
この後、1つずつ順に見ていくことにしましょう。
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)