決め手となる治療、予防の手立てがなく、早期に診断がつくことは“早期絶望”につながるといわれている認知症。こうした現状を変えるため、認知症の「先制医療」に取り組む医師がいる。日本の認知症治療の第一人者、アルツクリニック東京院長の新井平伊医師だ。「患者半減」を目指す新井医師の活動を取材した。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
認知症患者の
「早期診断・早期絶望」をなくしたい
「早期診断・早期絶望」――認知症患者が置かれている現状は、しばしばそう表現される。医療の一般常識として、進行性の病気は、「健診などによって早期に発見・診断し、早期に治療するべき」といわれているが、認知症のように決め手となる治療、予防の手立てがない疾患では、早期に診断がつくことは“早期絶望”につながってしまう。
例えば、これまで治療に使われてきた薬はいずれも、残された神経細胞を活性化させることで症状を遅らせようとするもので、認知症を治療する薬ではなかった。日本での保険適用は継続されているが、フランスでは2018年に、代表的な治療薬4種類全てが、「有用性不十分」という理由で医療保険の適用から外されている。
そんな中、「患者さんを『早期絶望』させない」と立ち上がった医師がいる。アルツクリニック東京(千代田区)院長の新井平伊医師だ。