管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

優れたリーダーが、あえて部下に「失敗する機会」を与える理由写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「失敗」から学ぶことで、
「自走力」が身につく

 人の成長に「失敗する経験」は欠かせません。

 たくさんの本を読むことよりも、一回の失敗をすることのほうが、より深い学びを得ることができるものです。

 いや、失敗をしたときに、初めて本で読んだことが身に染みて理解できるようになると言うべきでしょう。失敗には痛みが伴うからこそ、その痛みを繰り返さないために、人は本気になって自分を振り返り、改善策を考えるようになるからです。

 だから、管理職は、メンバーから「失敗する権利」を奪ってはならないと思います。

 メンバーの失敗を責めるなど論外。むしろ、そのメンバーが耐えられる失敗の範囲を見極めたうえで、あえて失敗する可能性があるチャレンジをさせることが大切なのです。

 そのチャレンジがうまくいけば自信につながるし、失敗すればそこから「気づき」が得られる。そのように、自らの力で成長することができる環境を用意してあげるのが、メンバーの「自走力」を養うために、管理職が果たすべき重要な役割だと思うのです。

 例えば、私は、実力をつけてきたメンバーには、積極的に会社の役員などの上層部に直接プレゼンしてもらう機会を与えるようにしていました。

 役員に対して一対一でプレゼンするときの緊張感を味わってもらうとともに、そこでどのような指摘がされるかを経験することで、会社における意思決定がどのようにされているかを肌で学んでもらうためです。もちろん、失敗することも織り込んだうえで、メンバーを役員のところに連れていくわけです。

優れたリーダーが、あえて部下に「失敗する機会」を与える理由前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務