管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

優れたリーダーが、“失敗した部下”を一切「責めない」理由とは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

管理職の命運を
決定づけるのは「これ」だ

 メンバーが失敗したり、トラブルを起こしたときにどう対応するか──。

 これは、管理職の命運を決定づける極めて重要なポイントです。対応を誤ればメンバーからの信頼を失い、正しく対処できればメンバーからの信頼が厚くなる。そして、その後のチーム運営に決定的な差が生まれるのです。それは、自分が部下だった頃の経験を振り返れば、簡単にわかることだと思います。

 私には、今でも忘れられない上司がいます。

 まだ若かった頃に、私が属していた部門を担当していたAさんという役員です。

 あるとき、Aさんが壇上でプレゼンをするというので、スクリーンに投影するプレゼン資料の作成を命じられたのですが、当時、私はまだパワーポイントにもほとんど触ったことがありませんでした。だから、見様見真似で必死になって資料を作り上げたのですが、致命的とも言うべき間違いを犯していました。

 少しでもリッチな内容に見えるようにしようと思って、ページをめくるたびに大袈裟な効果音が鳴る設定にしていたのです。こんなことは、今なら絶対にしません。ひどく滑稽な演出で、プレゼンの説得力を削ぐ効果しかないからです。

 そして、この資料がAさんに恥をかかせてしまうことになりました。

 Aさんが誠実な語り口でプレゼンを始めたにもかかわらず、ページをめくるたびに、それをぶち壊しにする効果音が鳴り響くのです。もはや、コントの世界です。しまいに、会場からは失笑が聞こえてきました。それでも、Aさんは苦笑しながら、「なかなか賑やかなプレゼンになってきましたね」とジョークを飛ばして、なんとか最後までやり切ってくださったのです。

 私は、その様子を見つめながら、自分の犯した失敗に愕然とするばかりでした。穴があったら入りたかった。ところが、プレゼンが終わってから、縮み上がるような思いでAさんのところにお詫びをしにいくと、彼は、ニコニコしながら私を労うばかりで、一言も責めるようなことはおっしゃいませんでした。そして、「また、頼むね」と声をかけてくださったのです。

 いま思えば、私が、明らかに自分を責めて憔悴しきっていたから、あえて苦言を呈する必要がないと判断されたのだろうとは思いますが、あのときの私には、本当に救われるような思いがしました。そして、「Aさんに喜んでもらえるように、全力で頑張ろう」と素直に思えたのです。

優れたリーダーが、“失敗した部下”を一切「責めない」理由とは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務