A課長は、その日の午後にCを呼び、来年の1月から自分が総務部長に昇進することを話した。そのことを聞いたCは笑顔になった。

「A課長、おめでとうございます。それで後任の総務課長はもう決まってるんですか?」
「そのことだが、社長に後任者を決めてほしいと言われたので君を推挙したよ」
「私をですか?」

 Bは目を丸くして驚いた。A課長はてっきりCが喜んで総務課長になってくれると思ったのだが、Cは首を横に振りながらこう言った。

「ダメですよ。私なんか若輩者だし、実力不足ですよ」

「昇進したくない」本当の理由とは

 Cが謙遜していると思ったA課長は、「そんなことはない。君は若いが仕事ができるし、チーム内だけではなく総務部内からの人望も厚い。私は君が適任だと思う。だからこの話、受けてくれるよね?」と、熱い口調で迫った。

 しかし、Cは困った顔で返答した。

「私、総務課長にはなりたくありません」
「はあ?」

 驚いて理由を尋ねたが、それはA課長が考えもつかないことだった。

「私は現在のキャパ以上に部下の管理や養成などの責任を持ちたくないんです」

 Cは続けた。

「それにA課長は、私たちが仕事を上がってからも毎日遅くまで残業してますよね? しかも課長は管理職だから残業代が出ない。責任と仕事量が増えるのに、給料が今よりわずかしか増えないなんて嫌ですよ」
「しかし、早く課長になればそれだけ早く出世できるんだぞ。君だったら取締役だって夢じゃない」
「出世には興味ありません。自分にとって大切なのはキチンと仕事をして、趣味のボルダリングも楽しめる時間です。だからこの話はお断りします」

 理路整然と反論するCに驚いたA課長は、これ以上返す言葉がなかった。