「社内文化」に染まらず客観的思考力を養成するための「3つの円」とは?illustration:村林タカノブ

多くの企業にはそれぞれ独自の文化があり、これまでの競争を生き抜くうえでそれが強みとなっていることも多い。しかし、いつの間にかそれが当たり前化し、「社内文化至上主義」に染まってしまってはいないだろうか? 自社を客観視することのできない社員ばかりの組織に、VUCAと呼ばれる変化の時代を生き抜くことはできない。
それでは、社員一人ひとりに「客観的思考力」を養成するには、どうすればいいのか。電通でさまざまな企業と共同プロジェクトを実施するほか、「電通若者研究部」として社会に発信しつづけている吉田将英氏によれば、個々の社員が会社を介さず社会とつながることこそが肝要と言う。大企業の若手中堅3000人の“組織を変えるための実践知”を集めた『大企業ハック大全』から、そのための技「社会と個人の直結回路」をご紹介しよう。

「社内文化至上主義」から脱するにはどうすればいい?

 企業には、それぞれ特有の文化が根づいています。1つの企業に長く所属していると、次第に社内文化が「当たり前」「絶対」だという感覚に陥ってしまい、会社が自分の社会のすべてだと錯覚してしまう可能性もあります

 そうして視野が狭まっていくと、世の中で起こっている出来事や変化に気づけなくなり、世の中と自社の相対関係が見えなくなっていってしまいます。つまり、自社を客観視できなくなるのです。

 しかし、めまぐるしく変化しつづける現代の社会では、世の中の変化に敏感であることが求められています。それは会社の業務においても、ひとりのビジネスパーソンとしても大切なことです。

 世の中の一次情報を入手し、自社に対する客観的な視点を持つためには、会社を経由しないルートでも社会とつながっておく必要があります。それが、「社会と個人の直結回路」です

実名で社会とつながり、客観的視点を手に入れた

 私が個人として社会とつながりを持ったきっかけは、電通総研という社会研究を行う社内組織に配属されたことでした。そこで私が担当することになったのは、若者研究。現代の若者が何を考え、どのように行動しているのかを研究することになったのです。

 加えて、メディアからの取材に対して有識者コメントを出すこともその組織の業務。そのため私は、自分の名前をメディアに載せて、若者に関する考察やコメントを出していました。

 納得感のある考察を出せれば、個人としても会社としても注目されるチャンスが生まれます。逆に、世の中の視点からずれていたり、検討が甘かったりする考察を出した場合には、会社としてだけでなく個人としても批判を受けます。責任の重さは感じるものの、SNSなどを通して世の中からフィードバックを直接もらえるのは貴重な機会。私自身も、フィードバックを受けてまた考察を発信する……というサイクルが自然と身につきました。

 そのような経験を繰り返すと、徐々に世の中と会社の差異が見え、会社を客観視できるようになっていきます。これは、私自身が「井の中の蛙」になることを防いでくれました。客観的に見た会社の強み・弱みを知ることで、それを業務にフィードバックすることも可能です。

 また副次的な効果として、評判の逆輸入が起こりました。これは、会社の名前で個人にスポットライトが当たるのではなく、個人の成果が評判になって会社に仕事の依頼がくるというもの。私の場合、「若者研究の専門家」として知られるようになったことで、クライアントから指名を受ける機会も出てきました。個人として社会とつながることは、会社にもメリットをもたらすのです。

自分・会社・社会の3つが重なる活動を見つけよう

 メディアへ考察を出す部署に配属されたという偶然も重なり、私は個人として社会に直接つながる機会を得られました。

 しかし、このような部署がない企業や担当している業務で社会との直接の接点を見つけられない人でも、社会との直結回路を作ることは可能だと考えています。そのために必要なのは、自分と会社と社会、3つの円の重なりを見つけることです。それには、同時に3つの要件を成立させる必要があります。

 1つ目は、自分の中にある衝動を見つけること。どのような想いでもかまいません。その想いを原点に、何かしらの活動に取り組んでみてください。たとえば私は、世の中や年長世代の若者の扱いに対して義憤を抱いていたことから、社内に「電通若者研究部」という団体を作り、有志活動としても若者の研究を行うようになりました。

 2つ目は、それを会社の業務として活かせないかという点です。何かを研究するのであれば、そこで得た知見や考察をプロジェクトに転用する。もしくは、その活動で生まれたアイデアを新規事業として提案してもいいでしょう。プロボノ活動で終わらせないためには、何かしらの形で会社に還元できないか考えなければなりません。

 3つ目は、社会にとってのメリットを探り当てること。自分と同じ想いや課題感を抱える人が他にいるとしたら、その活動は社会との接点になるはずです。このとき、何を「社会」と定義するかは自分で決めなければなりません。自分の周りにいる友人を社会とするのか、日本全体を社会とするのか。社会の範囲によって、課題も異なれば解決策も異なります。

 これら3つの円が重なる活動を見つけるのは容易ではありません。家と会社だけの毎日を送っていたら、きっと見つからないでしょう。日頃から社会とつながる意識を持つことが大切なのです。そして3つの円の重なりを見つけて成果を出せれば、会社にも認められ、社会とも直結できるようになります

 不確実な社会を生きる私たちにとって、物事を相対化して見る力は欠かせません。まずは自分の両足で立って社会に直結し、客観的な視点を手に入れましょう。そして、自分の意見を持って能動的に人生を切り拓いていってほしいと思います。

電通|吉田将英(よしだ・まさひで)
1985年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2008年ADK入社ののち、2012年電通に転職。現在は経営全般をアイデアで活性化する電通ビジネスデザインスクエアに所属し、さまざまな企業と共同プロジェクトを実施。また「電通若者研究部」(電通ワカモン)を兼務し、若年層の研究から見える未来仮説創造とコンサルティングに従事。『アンテナ力』など著書多数。