国内最大手の武田にとって唯一、不足だった高脂血症薬が近く販売される

 製薬最大手の武田薬品工業は今冬に高脂血症治療薬「ロトリガ」を発売する。これに対してある製薬業界関係者は「これで武田は国内の生活習慣病領域で“グランドスラム”を達成する」と評する。

 ロトリガは、イワシなどの魚油成分を精製した医療用医薬品。ノルウェーのプロノバが創り、武田は日本国内向けに開発および販売する権利を得ていた。11月22日に厚生労働省が公定価格(薬価)を決定、90日以内に発売される。

 冒頭のように“グランドスラム”と評されるのは、武田はロトリガを発売することで国内市場において高血圧、糖尿病、高脂血症という生活習慣病の3大領域を網羅するからだ。

 武田は、血圧降下剤「ブロプレス」、糖尿病治療薬「アクトス」などの大型品を持ち、生活習慣病領域は非常に強い。だが、高脂血症の領域のみが抜けていた。

 過去、“運”にも恵まれていなかった。武田は1999年にドイツのバイエルが創った高脂血症薬「セルタ」を導入し、国内販売を開始した。ところが、2001年にはバイエルによる副作用問題が海外で発生し、自主回収と販売中止を余儀なくされたのである。

 武田にとって、ロトリガへの期待は大きい。発売10年後には投与患者数34万人、販売額326億円を見込んでいる。

 ロトリガは、現在の高脂血症薬の主流であるスタチン系薬剤ではあまり効かない中性脂肪の低下に効果がある。スタチン系薬剤と併用もできる。近年、健康診断では悪玉コレステロールだけでなく、中性脂肪の値も重視されており、市場は有望だ。

 にもかかわらず、武田のOBである元幹部は、「往年の武田なら、見向きもしなかった薬」と複雑な思いを漏らす。ロトリガと似たような魚油成分を原料に精製した医療用医薬品に、持田製薬が長年販売してきた「エパデール」がある。「エパデールが登場した当時、武田社内では健康食品に毛の生えたようなものとばかにする風潮があった」という。