自社アプリとLINEミニアプリの違いは、
イニシャルコストと変更の容易さ

日本のDX最前線『ルポ 日本のDX最前線』酒井真弓(集英社インターナショナル)

 筆者は別の取材で、「ミニアプリのユーザーは自社のお客さまと言えるのか?」と疑問視する人が一定数いると耳にしたことがある。谷村さんは、前職で自社アプリの企画に携わっていた。店側から見て、自社アプリとLINEの違いは何だろうか。

「一番の違いは、イニシャルコストとアップデートに関するところです。一からアプリを開発するとなると、イニシャルで数百万のコストが掛かりますし、その後もメンテナンスのたびに掛かってきます。また、例えば、5店舗だったのが16店舗に増えれば、店舗検索の仕組みに変更を加えなければなりません。だいぶ成長痛があるんです。ある程度大きなチェーンになるまでは、LINE公式アカウントやLINEミニアプリのほうが管理しやすいと思います」

 谷村さんは、「新しく作るより、すでに提供されている機能をどう活用するか考えるほうが効率がいい」と語る。例えば、にわかに店舗を巡るスタンプラリーキャンペーンを思いついたとする。自社アプリにスタンプラリーの機能を追加しようとすると、新たな開発が必要で、時間もお金もかかる。せっかくのアイデアが、試してもみないうちに立ち消えになる。それよりは、ありもののスタンプラリー機能を利用して、のるかそるか試せるほうがずっといい。

「もっと身近なところでは、メニューを変更する際、紙のメニューだと一枚一枚書き換えたり、差し替えたりするのが地味に手間なんです。LINEミニアプリの場合、管理画面を更新するだけなので楽ですね」

 今回紹介した「ムゲン食堂」の取り組みを見て分かるように、飲食店にとってデジタル化は課題解決のよい手段になりうる。次回は東京・湯島の人気カフェ「廚くろぎ」が行列による機会損失に取り組んだ事例を紹介する。