ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から一部を特別公開する。メディア嫌いで知られるベゾスによる貴重な生の言葉である。

【ベゾスが語る】「できる人と普通の人」の決定的な差Photo: Adobe Stock

超良質な意思決定をするか、ただたくさん意思決定をするか

 私は朝のんびりと過ごすのが好きだ。早寝早起きが習慣になっている。新聞を読むのも好きだし、コーヒーも好きだ。子どもたちが登校する前に一緒に朝ご飯を食べる。そうやってのんびり過ごす時間が私にとってはとても大切だ。

 だから一日の最初の会議は10時からと決めている。頭を使うミーティングは、午前中にやることにしている。本当に精神力が必要なミーティングは朝10時に入れる。午後の5時になると、もうヘトヘトで、これ以上考えられない感じになる。それで明日の朝一に持ち越しにしよう、となる。

 そして8時間寝る。時差のある場所に行くのでもない限り、睡眠を優先させる。8時間も眠れないことはあるが、この点はかなり気をつけている。8時間睡眠が私には必要なのだ。よく寝れば、よく考えられる。元気も出る。機嫌もよくなる。

 それに、考えてもみてほしい。経営層は何に対して給料をもらっているのだろう? 数少ない、優れた判断をすることに対してだ。リーダーの仕事は毎日何千もの決定を下すことではない。

 たとえば、一日6時間寝たとしよう。またはもっと極端に、4時間睡眠だとしよう。すると4時間分、いわゆる「生産的な」時間が増える。それまで一日12時間働いていたとすると、それがいきなり4時間増えて16時間働くことができる。決定を下せる時間が33パーセント伸びることになる。それまでに下していた決定の数が100件なら、さらに33件の決定が下せる。

 だが、疲れていたりヘトヘトになっていたりで、決定の質が下がるとしたら、本当にその時間に価値はあるだろうか?

 もちろん、スタートアップの場合は事情が違う。アマゾンがまだ100人だったころは違っていたが、いまのアマゾンはもうスタートアップ企業ではなく、ほかの経営陣も私と同じような働き方をしている。つまり、未来に働いている。未来に生きている。

 私に直接、報告をするリーダー層は全員、今四半期に目を向けていてはいけない。四半期決算が好調なことを発表すると、人は「四半期決算、素晴らしいですね」と声をかけてくれる。私は「ありがとう」と返すが、心の中では、その業績は3年前に仕込んだものだと思っている。いまやっていることが日の目を見るのは、2023年のいつかで、経営者の仕事はそこにある。

 いつも2、3年先を考えていなければならないし、もしそうしていれば、日に100件も決定を下す必要はないはずだ。一日に3つでも良質な決定ができたらそれで十分だし、その3つの判断の質を最高に上げなければならない。ウォーレン・バフェットは、一年に3ついい判断ができれば満足だと言っている。私も本当にそう思う。

(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。