ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から、一部を特別公開する。(初出:2021年12月24日)

「優秀なのに上に行けない人」に欠けている1つの行動【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

ライバルよりうまくやるのに大切なこと

 世の中に、ゼロサムゲームというのはあまりない。スポーツの試合はゼロサムだ。ふたつのチームが試合でぶつかれば、一方が勝ち、もう一方は負ける。選挙もそうだ。ある候補者が当選すれば、対立候補は落選する。

 しかしビジネスの世界では、数社のライバル企業が共存できる。それが普通だ。ビジネスでもおそらく軍事でも、ライバルよりもうまくやるのにいちばん大切なのは、「足腰の強さ」「敏捷さ」だ。「規模」も必要になる。アメリカ軍の強みは、規模が大きいことだ。規模が大きければ、とてつもなく有利だ。規模が大きければ足腰も強い。パンチを受け止めることができる。

 だが、パンチを避けることができればもっといい。それが敏捷さだ。組織は大きいほど、より強靱になれる。敏捷さの中でも、意思決定のスピードは最も大切だ。次に大切なのは、実験への許容力だ。リスクを取りにいける組織でなければならない。失敗を進んで受け入れなければならないが、たいていの人は失敗を嫌がるものだ。

失敗には2種類ある

 失敗には2種類あると私はよく言っている。ひとつは実験的な失敗だ。新しいプロダクトやサービスを開発したり、何らかの実験をしてみてうまくいかなくても、それはかまわない。これは前向きな失敗だ。この手の失敗はどんどんやっていい。

 もうひとつはオペレーションの失敗だ。アマゾンはこれまでに数百軒もの物流センターを建ててきて、社内にはノウハウがある。もし新しく立ち上げた物流センターがまったく使いものにならなかったら、ノウハウをうまく実行に移せていないだけだ。これはダメな失敗だ。

 このふたつの失敗を区別して、発明とイノベーションを追いかけることが必要になる。

 実験を続けるには、それに適した人材がいる。イノベーティブな人材だ。イノベーティブな人たちは、意思決定が遅くリスクを取れない組織からは逃げ出してしまう。そうした組織はイノベーティブな人材を採用できても、留めることはできない。何かをつくりだすタイプの人たちは、つくることに専念したいのだ。非常に単純なことに思えるが、これがなかなか難しい。

「同じ土俵から抜ける」という行動を意識せよ

 もうひとつ、ライバルとの競争で重要な点は、相手と同じ土俵に立たないことだ。だからこそ、イノベーションが必要になるし、宇宙やサイバー領域ではとくにそうだ。

 アメフトの試合なら、戦う土俵が平等でなければはじまらない。だが宇宙やテクノロジーの世界では、昔からそもそも不平等な土俵での戦いが続いてきた。それが急速に変わっているのではないかと、私はとても不安になっている。これからもライバルより先を行き続け、同じ土俵で戦わないようにするためには、イノベーティブでなければならない。当たり前だが、同じ土俵で戦わないほうが有利だからだ。

 宇宙開発の領域には、イノベーションの得意なライバルたちがいる。だから、イノベーションに生死がかかっている。イノベーションが得意でないライバルを相手にする場合には、こちらもそれほどイノベーションを意識しなくてもいい。

 競争のことを考えると、自分たちが最優良企業のうちの一社であれば十分ということはない。あなたなら、将来自分たちと同じくらい優れた企業と戦っていきたいだろうか? 私はいやだ。

(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。