ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。堀内勉氏(多摩大学大学院特任教授)が「あらゆるところに珠玉の言葉が盛り込まれており、それらを抜粋して書評にしようと思ったのだが、そうすると本書を丸々一冊引用しなければならないことが分かり、断念した」HONZ 12/14と評するなど、各書で言及されているその内容とは? ベゾスの考え方、行動原則のすべてが詰まった『Invent & Wander』から、ウォルター・アイザックソンによる序文の一部を特別公開する。

ジェフ・ベゾスが「人類の未来は2択だけ」と言う悲壮な理由Photo: Adobe Stock

SF作家をアドバイザーに会社設立

 ジェフ・ベゾスがアマゾン以外で大きな情熱を注いでいるのは、子どものころから夢として育んできた宇宙旅行だ。ベゾスは2000年、シアトル近郊でひそかにブルーオリジンという会社を設立した。人類の起源である淡く青い地球にちなんでつけた社名である。

 ベゾスは自分がファンだったSF作家のニール・スティーブンソンに、この会社のアドバイザーになってもらった。

 二人はとんでもなく斬新なアイデア、たとえば牛追いの鞭のようなデバイスを使ってカプセルを宇宙に打ち上げるといった、とっぴなアイデアをあれこれとこねくり回した。最終的に的を絞ったのは、再利用可能なロケットだ。

「1960年と2000年で、状況はどう違っているだろう?」とベゾスは自問した。「エンジンはいくらかよくなったとはいえ、いまも化学ロケットエンジンが使われている。違うのはコンピュータ・センサー、カメラ、ソフトウェアだ。垂直着陸の問題を解決できそうなテクノロジーは、1960年にはなかったが2000年には存在している」

 2003年3月、ベゾスは再利用ロケットを秘密裡に建設するため、テキサスに広大な農場を買い入れた。クリスチャン・ダベンポートが著した『宇宙の覇者ベゾスvsマスク』の見せ場のひとつが、ベゾスがヘリコプターで候補地を探しにいった際、そのヘリコプターが墜落して危うく死にかけた場面だ。

 記者であり、ベゾスの伝記を書いていたブラッド・ストーンは、ブルーオリジンの存在を知るとベゾスにメールを送り、コメントを求めた。ベゾスはまだ何も話す気はなかったものの、ストーンが考えた、政府お抱えのNASAがリスク回避に走り過ぎ、開発が停滞していると思ったベゾスが宇宙開発企業を設立したという筋書きをはっきりと否定した。

「NASAは国の宝で、私がNASAに対して不満を持っているなどという話はデタラメだ」とストーンに返事を書いた。「私が宇宙に興味を持ったのは、ほかでもないNASAが、5歳だった私に感動を与えてくれたからだ。5歳児を感動させられる政府機関がほかにあるだろうか? NASAの仕事は過酷で非常にリスクが大きいが、彼らは素晴らしい成果をあげ続けている。小さな宇宙開発企業が何かを成し遂げられる可能性が少しでもあるとすれば、それはNASAの業績と開発力の恩恵にあやかれるからだ」

「成長をあきらめるか、宇宙に出るか」の2択

 ベゾスは金儲けではなく伝道者として宇宙探検に臨んでいる。

「これは私にとって最も重要な仕事で、強い信念を持ってやっていることだ」

 とベゾスは言う。

 地球は有限で、エネルギー使用がこれほど増大してくると、この小さな惑星の資源はまもなく枯渇することになるとベゾスは考えた。すると取る道は限られる。人類の生き残りのために経済成長をあきらめるか、地球以外の場所を探検し、外に拡大していくか。

「私の孫の孫には、私よりも一人当たりのエネルギーをもっと多く使うようになってほしい」とベゾスは言う。「それに、人口制限をかけるような状況にはなってほしくない。太陽光システムのもとで1兆人が過ごせるような未来を願っている。そしてそこに1000人のアインシュタインと1000人のモーツァルトが存在してほしい」

 だがこれから100年もたたないうちに、地球が人口増加とエネルギー利用を支えきれなくなるのではないかとベゾスは恐れている。

「するとどうなるだろう? 停滞状態だ。停滞と自由は両立しない」

 そこでベゾスは、いまから新天地の開拓を考えはじめるべきだと思うようになった。いまあるリソースを使って宇宙開発の費用を低減することで、「きっとこの問題を解決できる」とベゾスは言う。

 ブルーオリジンは再利用可能なローンチ・ビークルとエンジンを使って宇宙旅行の費用を安くすることに集中した。アメリカ初の宇宙飛行士であるアラン・シェパードにちなんで名付けられた「ニューシェパード」は、垂直離陸して宇宙に飛び立ち、ふたたび地球に垂直着陸した最初のロケットとなった。しかもその後再利用されたことでも世界初となった。

 ウェスト・テキサスで打ち上げられたニューシェパードは、最初から有人ロケットとして開発され、宇宙を往来する有料の旅客ロケットとして打ち上げも準備されつつある。また大学や研究室やNASAのための有人飛行の研究実験も開始されている。

 世界ではじめて軌道周回飛行を行ったジョン・グレンにちなんで名付けられた「ニューグレン」は、法人顧客やNASA、国家安全保障関係の顧客を宇宙へと運ぶ準備を着々と進めている。

 2019年、ベゾスはブルームーン月着陸機の構想を発表する。NASAと5億ドルの契約を結び、ふたたび月面に人類を送り込むシステムを開発する計画である。このプロジェクトでブルーオリジンは、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンやドレイパー研究所と手を組んでいる。それとは別に、アポロ計画で使われたサターンVロケットに搭載されていたF1エンジンを回収する探索にもベゾスは資金を出している。

(本原稿はジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)