「地球の危機は月の開発で乗り越える」ジェフ・ベゾスの衝撃構想Photo by Leandra Rieger on Unsplash

ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から、一部を特別公開する。

変わるものより「変わらないもの」に注目する

 ニューグレンはニューシェパード(ベゾスが設立したブルーオリジン社が開発したロケット)の大型後継機です。ニューグレンのペイロード格納部にニューシェパードがすっぽり収まるほどの大きさです。その推力は390万トンにのぼります。

 私はたまに、非常に興味深い質問を受けることがあります。

 たとえば、「今後10年で何が変わると思いますか?」という問いです。私は面白く答えようと工夫しています。こういう会話は楽しい夕食の席でのものです。

 一方でほぼ聞かれることはありませんが、もっと重要な問いがあります。

 それは「今後10年で変わらないものは何か?」という問いです。

 この問いは非常に重要です。

 なぜなら、変わらないものを中心に計画を立てることができるからです。

 たとえば、10年経っても、低価格がお客様に支持されるのは間違いありません。それは変わらないでしょう。配達も速いほうがいいに決まっています。品揃えも多いほうがいいはずです。ということは、これらのことに心血を注げば、これからも見返りがあるのです。

 10年後にお客様がやってきて、「ジェフ、アマゾンは気に入ってるけど、もう少し配達を遅くしてくれないかな?」とか、「もう少し値段が高いほうがいいんだけど」と頼まれることはないでしょう。どんなに時代が変わっても変わらないものがわかったら、そこに力を注ぐことができます。

予定が延びると「玉突き」ですべてが混乱する

 ニューグレンにとって変わらないものが何かはわかっています。

 それは「コスト」と「信頼性」と「打ち上げスケジュールの正確さ」です。次の段階で本気で太陽系に向かう前に、そのいずれも改善しなければなりませんし、時を経てもその重要性は変わりません。

 10年後にニューグレンのお客様がやってきて、「ジェフ、もうちょっと頻繁に打ち上げに失敗してくれるといいのに」とか、「もっと高かったらよかった」とか「打ち上げのスケジュールに遅れてくれるといいのに」と言うことはあり得ません。

 ところで、直接、宇宙業界に関わっていなければ、可用性とスケジュールの正確さがどれほど重要な問題かがわからないかもしれません。打ち上げが延期されるとすべてが玉突き状態になり、お客様にも多大なコスト増になるのです。このことは、いつ何時でも変わりません。ですから私たちはこの点に力を注ぐのです。この3点を中心にロケットを設計します。

 再使用は、打ち上げコストを大幅に削減するための絶対的な鍵です。燃料価格はどれほど高いのか、燃料は問題になり得るのかということを疑問に思う人もいます。液体天然ガスは非常に安く手に入ります。ニューグレンには数百万トンの推進剤が必要ですが、燃料と酸化剤の費用は100万ドル以下で、全体から見ると大きな金額ではありません。

 軌道への打ち上げにこれほどお金がかかるのは、すべてが使い捨てだからです。まるでショッピングモールに行くのに、毎回車をお払い箱にするようなものです。これではモールに行くのにとても高くつきます。

月には貴重な資源が眠っている

〔編集部注:地球のエネルギー問題を解決するために人類が宇宙に進出するに当たって〕もうひとつ解決しなければならない点は、宇宙に存在する資源についてです。宇宙にある資源を使う必要があります。そして、それにもってこいの天体があります。それは月です。

 私たちはいまや月について、アポロ計画の時代やほんの20年前でさえわかっていなかった多くのことを知っています。

 そんな知識の中でもいちばん大切なのは、月には水という大変貴重な資源が、氷として眠っているということです。この氷は月の両極のクレーターの中にある、いわゆる「永久影」の中に存在しています。水を電気分解すると水素と酸素に分かれます。これが推進剤になるのです。

 もうひとつ月のいい点は、地球に近く、3日で行けるということです。26ヵ月に一度しか打ち上げ機会のない火星と違って、打ち上げ頻度の制約がありません。月ならばほぼ行きたいときに行くことができます。

 宇宙に大型の建造物を建てるということで言えば、月の重力は地球の6分の1です。月から資源を手に入れれば、非常に安上がりに無重力空間に持っていけるのです〔注:本書の前段で、ベゾスは宇宙空間にコロニーを建設する構想を語っている〕

 月で1ポンドの重量を持ち上げるのにかかるエネルギーは地球の24分の1です。それは大きな利点になります。

 もちろん、月にもインフラは必要です。インフラを築く方法のひとつは、私たちがこの数年開発してきたブルームーンのような大型月面着陸機を使うことです。ブルームーンは3.6トンの物資を搭載し、月面の狙った場所に正確に軟着陸できます。また大型燃料タンクを備えたモデルは、最大6.5トンまで貨物を積載して月面に軟着陸できます。

 デッキのデザインは非常にシンプルで、さまざまな形の貨物を簡単に収納できる構造になっています。また船の構造をまねて、デッキからクレーンのようなものをぶらさげて月の表面に下ろすことができます。クレーンは貨物によってカスタマイズもできます。

 月では、とくにその両極ではさまざまな興味深い科学研究を行うことができます。ブルーオリジンは科学諮問委員会をつくって、科学研究がきちんとなされるように担保すると共に、その研究から成果を得られるようにしています。

 また、ブルームーンのお客様も月への科学探査を計画しています。貨物や探査機や科学実験の機材を月表面に正確に軟着陸させられるブルームーンの能力を、お客様は高く評価してくださっています。(中略)

 環境が整えば、人々は思い切り創造性を開花することができます。私たちの世代が宇宙への道を開き、インフラを築けば、大勢の未来の起業家が本物の宇宙産業を創造するでしょう。

 私は彼らをその気にさせたいのです。大きすぎる夢に聞こえるかもしれませんし、実際、これは大きな夢です。いずれも簡単ではありません。何もかも難しいことですが、人々の心に火をつけたいのです。ぜひ考えてみてください──大きなことも小さくはじまる、ということを。

(本原稿はジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)