「羽子板の形に切り取るところも昔はこう、押し切り器みたいなのを使って手でやっていたんですよ。今は新潟の方でプレスしてもらってますけど。銅を使うのは硬さがちょうどいいから。アルミだと柔らかすぎてすぐに目が丸くなってしまうし、鉄とかステンレスだと硬すぎて目が立たない。それに銅には抗菌作用もあるし、価格的にも一番かな」

おいしい大根おろしができるのは
大量生産品にはない“不揃い”があるから

 大矢製作所は銅のおろし金を築地や日本橋の有名な刃物屋におろしている。それぞれのお店で売られている商品にはそれぞれの刃物メーカーの刻印が打たれているが、商品自体に違いはない。ということは正確な数字はわからないが関東近郊で手に入るおろし金のうち、かなりの割合がここでつくられているということになる。

 最近でこそ、時代の流れでインターネットなどを使って直販もしているが(その商品には大矢という刻印が打たれている)以前はしていなかったという。

「職人は名前を出したりはしないもんですから」

 職人達はそういうが、消費者が商品からどこでつくられたかを見分けるのは難しそうなことではある。外国人だったら1つ1つ、署名を入れて作品のように売るところであるが、日本の職人はこのあたり実に控えめ、というか、作品ではなくあくまで道具という商品をつくっているところに誇りのようなものを持っているようだ。

「一時、にわか職人みたいのがつくった商品を見たことがあります。見ただけでそういうのはわかりますよ。目が立ってないんですよね。そうすると切れない」

──なにが違うんですか?

セラミック製おろし金でおろした大根おろし(左)と大矢製作所の銅製おろし金でおろした大根おろし(右)。大矢製作所の大根おろしは水分を含んだままだ

「ちゃんと目が立ったおろし金は水分を逃がさないっていうか。セラミックやアルミのは繊維を潰してしまいますけど、これは切ってますんで水分を含んだままなんです。ちょっと皆さんに試してもらおうと思って大根を用意したんです」

 大根を持っておろし金に当てる。動かすと軽い力で大根がおろせることがわかる。

「(大根を)廻さないでいいんです」