うつ病に12倍かかりやすくなる「ウイルスと遺伝子」の正体、最新研究で解明Photo:PIXTA

近い将来、うつ病は世界で最も重要な疾患になると予測されている。一方で、発症につながる原因の究明や特効薬の開発は進んでいない、と考えられている。しかしその常識は昨年、すでに覆された。うつ病の発症確率にある「ウイルス」が関係していることが分かったのだ。どういうことなのか。また、この発見はうつ病の治療や予防にどのような影響を与えるのか。画期的な研究成果を発表した東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の近藤一博教授に話を聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

うつ病の原因は
すでに解明されている

 過労自殺した人の約半数は、うつ病などの精神疾患の発症から6日以内に亡くなった――。

 2021年10月26日、厚生労働省が公表した「過労死等防止対策白書」のデータからは、うつ病と過労死の関係だけでなく、うつ病が死に至る重篤な疾患であることが分かる。罹患(りかん)率も非常に高く、日本では100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しており、世界では全年齢層にわたって2億6400万人以上が罹患しているという調査結果もある。

 こうした深刻な事態に昨今は新型コロナウイルスによるパンデミックが拍車をかけ、さらに近い将来、世界で最も重要な疾患になるとの予測もあるうつ病だが、特効薬の開発はもとより原因の究明も「いっこうに進んでいない」と思われている。

 迅速かつ正確な情報発信が求められる厚生労働省提供のウェブサイト「みんなのメンタルヘルス」にさえ、「発症の原因は今のところ分かっていません」と記載されたままだ。

 だが実は、うつ病の原因(正確にはリスクファクター=危険因子)は、東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の近藤一博教授らによってすでに解明されている(教授らは、「疲労の原因物質とメカニズム」についても解明しており、その詳細は本サイトで公開した記事『栄養ドリンクのCMから「疲労回復」の言葉が消えた深いワケ』(10月28日配信)でも取り上げている)。

 近藤教授らはなんと、「ほとんど全ての人に潜伏感染しているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の遺伝子SITH-1(シスワン)を発見し、これがストレスレジリエンス(ストレスを跳ね返す力)を低下させて、うつ病を発症させることを見いだした」。SITH-1を持っている人がうつ病を発症する確率は持っていない人の12.2倍、患者5人中4人はSITH-1を持っているという。

 論文は2020年6月、アメリカの権威ある科学誌『iScience(アイサイエンス)』(Cell Press)に掲載され、日本のマスコミも大々的に報じたのだが、なぜかあまり広まっていない。

「うつ病は病気ではなく、心の問題。心の弱さや性格が原因」と考えたい人が多すぎるのが一因ではないかと近藤教授は推察するが、加えて、教授らが唱える「ウイルス原因説」があまりにも突飛な印象を与えてしまうというのもあるように思う。

 しかし、10月の疲労に関する記事で「唾液中のウイルス量で疲労の度合いを客観的に測ることができる」という話に納得した読者であれば、うつ病ウイルス原因説もすんなりと納得できるはず。これは、うつ病の予防法や治療法を開発する上でも非常に大切なことなのだ。近藤教授に詳しい話を聞いた。