地域と話題を限定した話で恐縮だが、2012年10月中旬に、東京都内の駅構内のポスターや電車の中吊り広告に、「笑い男」が登場した。SFアニメ『攻殻機動隊』の新作でも出るのだろうかと、筆者は思わず、駅構内のポスターの前で立ち止まり、見入ってしまった。
結局、パチンコの宣伝であることがわかり、「なぁんだ」で立ち去った。にもかかわらず、「笑い男」のデザインは、何度も振り返ってみてしまうほど強烈な印象を残した。
「笑い男事件」を題材にしたこのSFアニメは、人間の体内を改造した「電脳」から直接、インターネットへ接続する世界を描いている。初めて視聴したときは、荒唐無稽な世界に思えた。
ところが、米アップル社のiPhoneやiPadの快進撃を見ていると、いずれはミクロ単位のスマートフォンが開発され、それをiPS細胞に埋め込んで──、という話も、あながち空想の世界とはいえなくなってきたようだ。
ということで今回は、近づきつつある「電脳化社会」の足音に耳をそばだてながら、iPhoneなどを扱うKDDIとソフトバンクを経営分析の俎上にのせることにした。ただし、ソフトバンクは前回(第97回コラム)で取り上げたので、メインはKDDIとする。
最初に、両社の株価収益率(PER)の推移を〔図表 1〕に掲げよう。
ソフトバンクは2008年7月から、iPhoneを販売した。株価収益率PERの上昇がそれを表わしている。その後の3年間は、ソフトバンクの「独占市場」が続いた。
2011年10月にKDDIもiPhoneを扱うようになり、「複占市場」へと変化した。両社の株価収益率PERも、2011年後半以降は絡み合うように推移している。右端の12/9(2012年9月期)が、両社とも右上がりになっているのは、iPhone5の影響のようだ。
〔図表 1〕を見ると、株価は、iPhoneというたった1つの材料で反応しているように見える。短期的な視点で見るならば、たぶん、それは正しい。
長期的にはどうなるのだろうか。両社のセグメントには違いがあるし、KDDIは2013年3月期をメドに、ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコムを連結子会社にする計画がある。そうした経営戦略の差が、将来的には異なる株価を形成するものと、筆者は推測している。
では、どう異なるのか。いくつかの分析道具を提示しながら、説明していこう。