また後に黒木香となる“恵美”(森田望智)というヒロイン像は、『全裸監督』のキャラクターの真骨頂である。タイトルにある「全裸」には1ミリも嘘がなく、黒木香の代表作『SMぽいの好き』が生まれる瞬間の舞台裏を濃密に描くシーンは『全裸監督』のキモでもある。だが、ドラマはAVそのものに嫌悪感を抱くことが多い女性視聴者層も決して無視していないのだ。恵美を通じて、自己表現の自由を求めたひとりの女性の姿も省くことなく描かれているからである。

ネットフリックスオリジナル作品『全裸監督2』 Photo: NETFLIX『全裸監督2』。左から2人目が恵美(森田望智) Photo:NETFLIX

 総監督を務めた武(たけ)正晴氏の言葉からもそれを裏付けることができる。「男性目線だけの作品はもう通用しない。これまで100年以上にわたって、男性目線で作られるものが支配していたことも事実だが、これからは世界基準で作品を作っていこうとしたらそれでは無理が生じる。性を扱う作品は剣を刺すようなもので、子どもだろうが、大人だろうが、人間として描くことが求められる」

「女を舐めるなよ、という思惑で作った」という、安藤サクラ主演の『百円の恋』を代表作に持つ武監督らしい想いでもある。

 日本映画界で30年のキャリアを持つ武監督は、シーズン1、シーズン2にわたり総監督を務めている。シーズン1の製作時は日米交えて選りすぐりのスタッフが集結したことも特徴にある。美術監督はハリウッドで活躍する中西梨花、衣装は『キル・ビル』の小川久美子、音楽は『モテキ』の岩崎太整といった顔ぶれだ。また脚本の構想時にネットフリックス・オリジナルシリーズ『ナルコス』の脚本家・ジェイソン・ジョージを招き、その指導のもとに脚本チームが執筆に着手したという。そして、当時の新宿歌舞伎町を再現した屋内セットが作られ、どの位置、どの角度からも撮影できるという制限のない制作環境が整えられた。まさにお金に糸目をつけないネットフリックススタイルである。