2020年1月、陳剛(Gang Chen)教授をはじめとする米マサチューセッツ工科大学(MIT)の教員・学生20数人が、中国南部の深圳市を訪れた。大学研究の重なり合う分野について意見交換し、地元企業を視察、MIT留学に関心がある学生と面談を行うのが目的だった。ボストンに戻った陳氏がローガン空港に降り立つと、米税関・国境警備局(CBP)の係官が同氏を脇に連れていった。ノートパソコンと2台の携帯電話は押収され、中国で何をしていたのか、その理由は何かと尋ねられた。米国籍を持ち、機械工学の教授である陳氏は、中国の大学と共同研究をしているが、自身の研究はすべて米国内で行っていると係官に答えた。その1年後、陳氏は逮捕された。米政府に研究助成金を申請した際、中国との深いつながりを隠していたという虚偽申告の容疑だった。これは中国政府が学術研究の結びつきを利用して技術を盗用しているとの疑惑を背景に、米司法省が提訴し注目を集めた一連の事件の一つとなった。