ケムンパスがチョウになった!

 あのトレーニングを始めてから1ヵ月。まさに、その成果がこれから出るという矢先のことだったのです。

「和田さん、電話ですよ」
 ようやく山口さんから電話がありました。ちょっと不安になっていた私は、ほっとしてつとめて優しく、
「どうしたの?何かあったの?」
と聞きました。

「今、最終の契約取りで朝一番でお客さんのところに行ってました。今から戻ります!」

 会社に戻ってきた山口さんは、5枚の契約書を私の前に置きました。
「やりました!達成です!」
と、鼻息荒く山口さん。
「すごい、本当に?……そんな案件なかったじゃない」
よほど興奮しているようで、彼は一気にまくしたてました。

「はい、でも、今までに『今はいらないけどいつかね』というお客さんが、私にはたくさんあったんです。それで、お客さんに『締め切りは今日まで』って言ってあったんです。和田さんとの約束を守りたかったから。『締め切りに間に合わせるというプロの仕事をしろ』って言われたから。

 私って優柔不断だから、期限の設定でもなんでもいつも和田さんに決めてもらっていたでしょう?それじゃいけないって思ったんです。自分が優柔不断だとお客さんも優柔不断になるし、いくら仲良くなって『ケムンパスさん、また、遊びにきてね~』なんて言われても、契約がとれなけりゃ意味ないですもんね。

 だから今まで回った会社すべてに『締め切りを過ぎたら、もう来年まで受け付けません』って言ったんです。自分にとっても勝負だったんです。『先延ばしにしないためには、絶対に期限が必要だ』と和田さんに教えてもらっていたから、同じことをお客さんにもわかってもらいたくって……。断られるのを怖がっていたら、何も進まないし……。断られるのも、返事待ちのまま、ずっと、何もしないのも同じ結果ですよね?だから私、賭けてみたんです。そうしたら……」

「そうしたら、イエスにひっくり返った?」
「そうなんですよ。だから、朝いちで契約書書いてもらって……」
「だから、朝いちにあんなに電話が多かったんだ。勝負の駒だね。オセロゲームのような。端っこ制覇して、全部ひっくり返したってわけね」
「……オセロゲームですか?」

「なんかうれしいね。もう山口さんがケムンパスじゃないような気がしてきた。飛んでいってしまいそうな感じ……成長して巣立つってこと。おめでとう、山口さん。勝負に強くなったってことは、営業の勘が身についたってことだね。あとは任せるから、どんどん自分の勘で進んでね」
「私、飛んでいっても、ここに戻ってきますよ」
「いいよ~、戻ってこないでも」
「まあ、そんなこと言わないで」
「あれ?髪の毛増えたみたいよ」
「えっ?本当ですかあ?やっぱりケムンパス卒業かなぁ……」
と思わず頭に手をやった山口さんですが、
「あれ?やっぱりないや」
「嘘よ。そうやってすぐ調子に乗っちゃうところなんか、やっぱりまだまだだね」
「ひどいな……和田さん」
「へへへへ」

 山口さんはこのとき、なんと社内でもトップレベルの20契約をゲットし、周りの人をびっくりさせてしまったのです。この1ヵ月の間、ダサダサのおっさんだったはずのケムンパスの変貌ぶりに、ケムンパス・ファンができるまでになっていたのです。まるでケムンパスが華麗に舞うチョウに変身を遂げたかのようでした。

(次回は12月13日更新予定です)


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