お客さんの心境になってみる

 私は、彼が訪問したお客さんの心境になる方法を考えました。それにはやはり現場を見るしかないのです。そう思った私は、次の日、山口さんに電話をし、
「ねぇ、今日はアポイントある?」
「はい。ありますよ~」
「……どこの会社さん?最寄りの駅は?で、何時に行くの?」

 こと細かに場所まで聞き出した私がとった行動は、自分も他の案件で同じ時間にその会社に飛び込み営業をするということでした。もちろんそのことは山口さんには内緒です。

 そこで、私は営業研修を売り込もうとしましたが、アポイントがとれていないため、あえなく玄関口でノックアウト。山口さんとは入れ違いで様子を見ることもできず、なんともばかなことをしてしまった私でしたが、ここまできてあきらめるわけにはいきません。その後は探偵か刑事のように、出てきたばかりの会社の前で山口さんを待ち伏せしたのです。……そして、20分後、山口さんは出てきました。

「和田さん、こんなところで何をしているんですか?」
「えっ、近くまできたからちょっと待ってようかなって……。そ、それよりどうだったの?」
「はあ……。電話ではいい感じだったのですが、『検討するから』って感じで、なんだかよくわかりません」

 実はそのとき、私にはひとつの答えが出ていたのです。私は、山口さんを待っていた20分の間に、山口さんが電話でアポをとってから、お客さんを訪問するまでの様子が想像できました。それでようやく、お客さんの心理もつかめたのです。

 もし、私がお客さんだとしたら、営業のアポイントをとる電話から流れる声の感じで勝手にその人をイメージします。「かっこいい人だったらいいな」とか。

 お客さんが勝手に電話の主をかっこいい人と想像した場合、実際に当人が現れたとき、「げっ、違うじゃない……」とか「なによ、まったく……」とがっかりしてしまうわけです。もちろん、お客さんが勝手に期待して、裏切られているだけなのですが、これだけでも営業としてはマイナスからのスタートです。山口さんを最初に見たときの感想こそが、お客様の心理なのです。