一般のビジネスパーソンが
「居住地の自由」を獲得するための手段は?

 現実問題として国家公務員の交通費上限は1カ月5万5000円。民間企業の場合もそれに準じるか、それよりも低い上限3万円以下の企業も多いという実態があります。

 つまり、交通費支給枠は多くの会社ではそれほど大きくはなく、どのような規程を設けるかは、あくまで社員に対する会社の福利厚生的な要素の一つであって、それを緩和するかどうかは、会社ごとの人事政策判断なのです。

 その観点で言えば、そもそも企業から見れば長い通勤時間がかかる遠隔地居住の社員を雇用するのはムダだともいえます。毎日往復3時間のいわゆる「痛勤列車」で会社とマイホームを往復する社員は、お疲れ様といえばお疲れ様ですが、疲労が蓄積すればそもそも戦力としての消耗が激しい。

 会社のためにも本人のためにも、近いところに住む社員を採用したほうがお互いにメリットがあるはずです。

 だとすれば、居住地の自由を享受できるのは、経済メリットの観点で考えればITエンジニアのように採用が難しい希少人材か、ないしは非常に優秀で会社が手放したくない人材に限られるのではないでしょうか。

 そして一般企業の場合は「そうではない一般社員の方が人数が多い」のであれば、会社は交通費の上限を上げるメリットは総合的観点でいえば「ない」でしょう。その代わりに失いたくない優秀な社員の報酬レベルを上げればいいだけの話です。

 ですから、一般のビジネスパーソンの場合、何らかの事情から居住地の自由を獲得したければ、自腹で通勤するのが未来においても有力な解決策だと考えたほうがよさそうです。

 マイホームを大自然の中に建てるとか、生まれ育った街で両親と一緒に暮らすとか、人生を充実させる目的での自腹遠隔地居住者はそれでも増えていくことでしょう。

 ちなみに「自腹の交通費って税金で取り戻せないの?」と疑問を持つ方のためにお話ししておくと、確定申告の際に特定支出控除という制度があって、自腹の交通費の一部を所得から控除してもらえる可能性はあります。

 会社が支給してくれない新幹線の特急券部分とか、在来線のグリーン車とか、駅からのタクシー代、それに単身赴任者が実家に頻繁に戻る場合など、自腹になった部分が大きければその一部は税金で取り戻せるかもしれません。

 ただし、この特定支出控除は金額のハードルが高くて、年収500万円の人なら自腹が月6.4万円を超えてから、年収1000万円なら自腹が9.2万円を超えた分でないとだめなのです。つまり現実的には、自腹救済についてはそれほど大きな税のメリットは期待できないでしょう。

 そう考えると、今回のヤフーの新しい人事制度、未来の多くの日本企業の社員から見ても「あそこの会社はうらやましいな」という先端的な話になるのではないでしょうか。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)