これまでの連載で、「DX(デジタルトランスフォーメーション)は新しいデジタルツールの導入や、デジタル技術を駆使した新規ビジネス創出にとどまるのではなく、デジタル技術を用いて「経営を変革すること」とお伝えしてきました。とはいえ、企業の変革は企業文化を変革することにも等しく、そうそう簡単なことではありません。かくいうKADOKAWAグループ(以下、KADOKAWA)も、DXの取り組みは試行錯誤の連続です。最終回では、われわれがDXの取り組みでぶち当たった壁とその克服法を紹介しましょう。(KADOKAWA Connected代表取締役社長 各務茂雄)
DXは山登りに似ている! 登るべき山は無限!?
DX推進プロジェクトでよくある失敗は、「経営者が号令だけかけて後は現場に丸投げし、空中分解するケース」です。
自社にとってのDXとは何かを定義せず、DXで何を実現したいのかを明確にしないまま、現場の担当者がバラバラに取り組んでもDXが成功するはずがありません。これはDXに限らず「現場力はすごいが指揮系統と責任の所在が曖昧だったため、プロジェクトが炎上したケース」を、皆さんも目の当たりにしたことがあるのではないでしょうか。
私は、かねて「DXは山登りに似ている」と説明しています。最初に道なき道を切り開くのは、チャレンジ精神が旺盛なイノベーターです。そして、その後ろをアーリーアダプター(早期導入者)が続きます。この先人たちが山道を作る過程で、どこに障害(課題)があるのかを確認し、次に続くアーリーマジョリティー(早くに新しいものを取り入れる人たち)やレイトマジョリティー(消極的で、なかなか導入しない人たち)たちがつまずかないように支援しながら、頂上までたどり着けるように寄り添うのです。ただ、登るべき山は一つではありません。
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たとえば、最初に高尾山に登れば、その先にはもっと高い秩父連山が見え、さらにその向こうには南アルプス連峰が見えてきます。DXも同じように、一つの課題を解決して先に進むと、そこから新たな課題が見えてきます。これら次から次へと姿を見せる課題を解決しながら前に進んでいくうちに、頂上に到達することができるのです。