「ウチの会社は優秀な人材ほどすぐに辞めてしまう」「デジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引するような人材が社内にいない」……。近年、多くの経営者からこんなぼやきが聞こえます。しかし、こうした悩みの根源は、経営側にあることがほとんどです。「優秀な人材がすぐに辞める」と嘆く経営者は、従業員の労働をきちんと評価し、役割と責任に見合った報酬を支払っているのでしょうか。(KADOKAWA Connected代表取締役社長 各務茂雄)
「会社に長くいるだけの人」がDXの足を引っ張る
日本企業の多くは、新卒を一括で採用して人材に仕事を割り振る「メンバーシップ型」の雇用形態を採用しています。一般的にメンバーシップ型雇用の賃金体系は職能給であり、勤続年数とともに基本給が上がる「定期昇給」があるため、若い従業員の給与は低く設定されています。
しかし、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化している現在、従業員に求められるスキルセットは多様化しています。そのような状況では、全従業員の給与水準を一律で引き上げるような賃金体系では対応できなくなっています。特にDXを推進するうえで必要なのは、柔軟性と俊敏性、そして既存の慣習にとらわれない新しい創造力を持った人材です。企業は彼らが自らのスキルを存分に発揮できる報酬制度を整備しなければなりません。
では、どのような報酬制度がよいのでしょうか。
一つは、職務と仕事内容に応じて社員の給与待遇を決定する「ジョブ型」の雇用形態にすることです。この雇用形態は、雇用の流動性が高い外資系企業やIT企業が多く採用しています。職務に求められる仕事の成果(アウトプット)に応じて報酬が支払われるため、「長く会社にいるだけの人」が高い給料をもらえるわけではありません。
タイトルに掲げた「月給35万円の従業員」を考えてみてください。経営者は従業員の仕事内容や責任、業績への貢献度などを“因数分解”し、「月給35万円の内訳」を説明できますか。
「勤続年数が長いから」という理由しか挙げられなければ、早急に報酬制度だけでなく、人事制度も見直す必要があります。従業員一人一人の役割を明確化し、給与と賞与がなぜその金額なのかを従業員が納得できるようにしなければなりません。
一方、従業員側も自らの価値を把握しなくては、これからのビジネスパーソンとして生き抜くことはできません。