半導体不足の中、SUMCOがシリコンウエハーの増産投資を躊躇した「苦い経験」Photo:PIXTA

昨年から続く深刻な半導体不足の影響がさまざまな企業、業界に及んでいる。そうした中で注目しておきたいのが、半導体関連メーカーの動向だ。本連載でも今回から複数回にわたって、決算書から大手半導体関連メーカーの戦略を読み解いていきたい。本稿では、半導体の基幹材料であるシリコンウエハーを手掛けるSUMCOについて見ていこう。メーカーからの強い要請がありながら、増産投資に慎重な姿勢を見せてきたSUMCO。その理由とは何だったのか。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)

先延ばしにしてきた
大型増産投資を決めたSUMCO

 今回は、半導体材料であるシリコンウエハーメーカー大手のSUMCOの決算書を読み解いてみよう。SUMCOは、1999年に住友金属工業(現日本製鉄)と三菱マテリアル、三菱マテリアルシリコンの共同出資によって設立された(設立当初の社名はシリコンユナイテッドマニュファクチュアリング)。シリコンウエハー市場では信越化学工業に次いで、世界第2位のシェアを持っている。

 世界的な半導体不足が問題となる中、半導体の基幹材料であるシリコンウエハーの不足もかねて深刻な問題となっていた。半導体受託生産の最大手である台湾のTSMCは、SUMCOに対して21年2月から早期増産の要請を繰り返していたという(日経ビジネス2021年5月10日号)。それにもかかわらず、SUMCOは増産投資に対して慎重な姿勢を崩さず、増産投資の意思決定を先延ばしにしてきた。

 そしてようやく、SUMCOは21年9月末に約2287億円を投じて増産投資に踏み切ることを発表した。この投資には、自己資金のほか、公募増資によって調達した資金を充当することとしている。また、同11月には台湾子会社でも約1150億円を投資し、シリコンウエハー工場を新設することを発表した(2021年11月11日付日本経済新聞朝刊)。

 世界的にシリコンウエハーの供給能力が不足していたにもかかわらず、SUMCOが増産投資を先延ばしにしてきた理由とは何だったのか。現在と過去のSUMCOの決算書を読み解きながら、探っていくことにしよう。