「投資の神様」「オマハの賢人」と呼ばれ、投資だけで個人資産10兆8000億円を築いたウォーレン・バフェット。大学で学ぶファイナンス理論では、バフェット流のバリュー投資は否定的に扱われているが、バフェットの投資実績は誰もが認めるところだ。バフェットの強さの秘密は何か。その謎を解く1冊の本がある。バフェット研究の第一人者ロバート・G・ハグストロームが、投資で成功するために必要な哲学と思考を解き明かした『バフェットのマネーマインド』(小野一郎訳)だ。今回、日本版の刊行を記念して、その一部を紹介しよう。
現代ポートフォリオ理論では
よい企業を安く買うことはできない
1974年に、バークシャー・ハザウェイはワシントン・ポストのクラスB株46万7150株を1062万8000ドルで購入した。
当時、バークシャーにとって最大の株式投資であった。その年の終わりには、株式市場は大恐慌以来最悪となる残酷な下げ相場の真っただ中で50%近くも下落していた。ワシントン・ポストの株価もほかの銘柄と一緒に下落したが、バフェットは揺るがず冷静だった。
1975年のバークシャー・ハザウェイの年次報告書の中で、彼は「株式市場の変動は、それが買いの機会になりうることを除けば、私たちにとってあまり重要ではないが、ビジネスのパフォーマンスは重要である。この点について、現在重要な投資を行っているほぼすべての企業の業績に満足している」と述べている。ワシントン・ポストの株式もその中の一つだった。
1990年、スタンフォード大学ロースクールでの講義で、バフェットは自分の考えをこう述べている。
「私たちは、1974年に8000万ドルの評価額でワシントン・ポストの株式を購入しました。購入時に、100人のアナリストに価値を尋ねたら、4億ドルの価値があることに誰も異論はなかったでしょう。4億ドルの価値があるにもかかわらず、ベータ理論とモダン・ポートフォリオ・セオリーに基づけば、8000万ドルの評価で買うよりも4000万ドルの評価で買うほうがリスクが高いことになります。なぜなら、ボラティリティが高いからです。これでは、私は彼らに付き合いきれないと思いました」