今月から2023年卒業の学生らの就職活動が本格化した。コロナ禍でオンライン面接の機会が増え、選考フローも変化しているが、書類選考や面接を勝ち抜いて志望企業への内定を獲得するためには、「企業が応募者に求めていること」をきちんと理解しておくことが重要だ、という点に変わりはない。
そこでヒントになるのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの採用マネジャーを12年務めた伊賀泰代氏が「いまの日本が必要としている人材像」を解説した『採用基準』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では本書より一部を抜粋・編集して、「リーダーに向いている人、向いていない人」の意外な差について解説する。(構成/根本隼)
突出した能力がある「スパイク型人材」が高評価
「マッキンゼーは、なんでもできる万能人材を求めている」と思われていることも誤解です。日本社会は平均的にレベルが高いことを重視します。優等生とは、数学も国語も英語も社会も理科もできる人、もしくは、数的処理能力もコミュニケーション能力も洞察力も文章力も全部一定レベル以上の、バランス型人材のことです。
実はマッキンゼーでは、バランスが崩れていてもよいので、何かの点において突出して高い能力をもっている人が高く評価されます。
ある1点において卓越したレベルにある人を「スパイク型人材」と称し、採用時も入社後も「彼・彼女のスパイクは何か」という視点で人材を評価しているのです(図表2参照)。
「バランス型人材」は難局を乗り切れない
スパイク型人材は、難局においてリーダーシップを発揮する際に、とても有利です。困難な条件下で組織を率いるリーダーはしばしば、「この難局を、何で勝負して乗り切るのか」と問われるからです。
危機の時、ここぞという時に使える自分の勝負球や自分独自の勝ちパターンをもっていれば、それで難局を乗り切れます。
一方「なんでもそつなくこなせる」平均点の高い優等生型人材は、一定以上の難局を乗り切るための術をもっていません(図表3参照)。
スパイク型人材の欠点は周りが補えばいい
ふたつの図を比べてみてください。この図を見れば、「どんなに大変な状況におちいっても、ここにもち込めば必ず勝てる」というスパイクがあってこそ、難局を乗り切ることが可能なのだと、よくわかると思います。
ただしスパイク型の人材は、1人で仕事をすると必ずしもうまくいきません。あれこれと足りない能力が存在するからです。
しかしチームで成果を出せばよいのなら、それらの点については他のメンバーが補えばよいのです。経営者の場合も、誰にも負けない切り札さえもっていれば、自分の至らない他の部分については、有能な部下を雇えばよいだけです。
しかし日本社会では、スパイク型の人材はあまり高く評価されません。バランスが悪く、組織の中で問題児になったり、足手まといになると思われがちです。
元研究者をコンサルとして積極採用している
ただこの点に関しても、アカデミックな世界だけは日本でもスパイク型の人材が高く評価されています。研究者はごく狭い分野を誰よりも深く極める必要があり、すべての分野について平均的に知識やスキルが求められるわけではありません。
専門の研究分野で高い成果を上げている人には、バランス型の優等生ではなく、得意分野に偏りのあるスパイク型の人材が多いはずです。
実はマッキンゼーは世界でも日本でも、博士号をもつ元研究者を積極的にコンサルタントとして採用しているのですが、それは仮説構築力など構築型の能力をもつ人材が多いことと併せ、スパイク型の人材が多いことも、その理由だと思います。
このように「マッキンゼーの求める人材」は、「なんでもできる優秀な人」ではありません。採用しているのは、かなりとんがった、バランスの悪い人であったりするのです。
(本稿は、『採用基準』のP.52~55より抜粋・編集したものです。)