今月から2023年卒業の学生らの就職活動が本格化した。コロナ禍でオンライン面接の機会が増え、選考フローも変化しているが、書類選考や面接を勝ち抜いて志望企業への内定を獲得するためには、「企業が応募者に求めていること」をきちんと理解しておくことが重要だ、という点に変わりはない。
そこでヒントになるのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの採用マネジャーを12年務めた伊賀泰代氏が「いまの日本が必要としている人材像」を解説した『採用基準』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では本書より一部を抜粋・編集して、「頭のよさ」だけではコンサル企業に採用されない真の理由を明らかにする。(構成/根本隼)
「地頭」という概念が誤解を呼んでいる
地頭というのも誤解を呼びがちな概念です。最近は“地頭信仰”とでも言いたくなるほど、この言葉は過大に取りざたされており、あたかも当然のように「外資系コンサルティングファームは、地頭のよい学生を求めているんですよね」と聞かれます。
たしかに地頭は悪いよりはよいほうがいいでしょう。しかし地頭信仰の最大の不毛さは、「頭さえよければコンサルティングファームに入ることができる」という誤解を生んでしまっていることです。
コンサル業務の3つのプロセスとは?
コンサルティング業務の根幹は、企業経営者向けのサービス業です。企業を率いる経営者の方から相談を受け、その解決を支援するのが仕事です。それは、
(1)経営課題の相談を受ける
(2)問題の解決方法を見つける
(3)問題を解決する
の3つのプロセスに分かれます。
このうち地頭が関係するのは②の「問題の解決方法を見つける」ところだけです。(1)や(3)も、(2)と同等以上に重要なのですが、地頭信仰に毒されてしまうとそれが見えなくなります。
たとえば最初の「経営課題の相談を受ける」部分。ごく普通に考えればわかることですが、企業のトップ、もしくはそれに近いところで経営を率いる人が、自社の経営課題を誰にでもあけすけに打ち明けたりするでしょうか。
それは時に重要な機密事項を含み、ライバル企業に知られると致命傷になりかねない情報です。また、経営課題を他者に相談すること自体が、経営者として他者に弱さを見せることにもつながります。
どんな経営者でも、誰かれかまわず経営課題に関して相談をもちかけたりはしません。合併や事業撤退などの判断については、直属の部下や役員仲間への相談さえ躊躇されることもあるでしょう。
経営者に信頼されないと仕事にならない
経営者が、経営上の重要課題について相談をするのは、「問題を解く能力がある人なら誰でも」ではないのです。そういった相談を受けるためには、お互いの間に深い信頼関係が成り立っていることが不可欠です。
ライバル会社ではなく、自社のみにコミットしてくれているはず、という信頼感、個人として弱みを見せてもよいと思える包容力、最終的に結果を出してくれると信じられるリーダーシップなど、さまざまな資質が必要です。それらに必要なものが地頭などでないことは、誰の目にも明らかでしょう。
コンサルタントは、ベルトコンベアで運ばれてきた経営課題を、修理してまたベルトコンベアに乗せるような仕事ではありません。解くべき課題は「誰かが目の前に運んできてくれる」のではなく、自分が経営者の方に信頼されて、初めて打ち明けてもらえるものなのです。
地頭だけでなく、必要な資質は多岐にわたる
さらに後工程も重要です。「問題の解が見つけられること」と、「問題が解決できること」はまったく次元が異なります。「こうやれば問題を解決できる」とわかっても、その実施のためには、組織の仲間に痛みを強いたり、外部企業との微妙な提携交渉をうまく乗り切ったり、経営者自身にも、今までに経験したことのない領域に足を踏み出してもらうなど、さまざまな支援が必要です。
それらの工程を統括し、困難にぶつかりつつも着実に前進するために必要な力も、地頭のよさとは無関係です。人や組織に関する深い洞察や感受性、強靭な精神力や未知のものに対する楽観的な姿勢(ポジティブシンキング)、粘り強さ、リーダーシップなど、求められる資質は多岐にわたるのです。
面接で「頭のよさ」だけをアピールする人は採用されない
ところが、地頭信仰に毒された候補者は、面接の際、自分の頭のよさを面接担当者にアピールすることに必死になります。自分が今までの仕事でいかに評価されてきたか、どれほど優秀な人材であるかを滔々と語る候補者は、そんな自分が相手からどう見えているか、まったく意識していません。
顧客である経営者は、自分がいかに優秀かを延々と語り続ける人を、「信頼できる相談相手だ」と思ってくれるでしょうか。自らが抱える機密情報を共有し、経営上の悩みを打ち明けたいと思うでしょうか。組織の中の反対勢力とも理解し合い、痛みを伴う改革を率先して進めてくれる頼れる仲間だと考えてくれるでしょうか。
面接担当者との会話の中で、相手の表情の変化さえ読もうとせず、ひたすらに自分が考える正しい答えを朗々と披露する人は、コンサルティング業がサービス業だということを理解していません。
自分が話していることを、今、相手がどう感じているのか、退屈だと思われていないか、的外れなことになってはいないか、理解されているのかいないのか、そういったことに鈍感では、地頭がよくてもこの仕事はできないのです。
(本稿は、『採用基準』のP.41~44より抜粋・編集したものです。)