「匿名の声」に勝てるのか?
ねぇ、あなたは、どう思う?
名前を持たない者たちと、名前を持つ者たちとの戦争があるとするならば、私は、名前を持つ人間として戦いたい。武器を手に取りたい。
私は、私の思いを伝えられる人間でありたい。
もちろん、のっぴきならない事情で、匿名でなければならないときもあるだろう。匿名であるからこそ、語れる言葉もあるだろう。
「匿名」という選択肢が残されているのは良いことだと、私は思う。
けれどもときどき、こうも思うのだ。
勝てるのか、と。
「匿名」という武器を手にした、制御の効かない人たちとの戦いにおいて、私は勝つことができるのか、と。
私は、自分の頭の中で響き続ける、名前のない声たちを、いつかシャットダウンすることができるのだろうか。誰の評価も、悪意も、攻撃も恐れることなく、私という人間の精神を保ったまま、はたして、素直に、自分の思いを発信し続けることができるのだろうか、と。
いつでも逃げられる場所から攻撃してくる人たちを、私は恐れずにはいられない。
傷つかずにはいられない。
涙を流さずにはいられない。
けれども、矛盾してるようだけれど、同時にこうも思うのだ。
傷ついてしまう自分自身を、失わずにいたいと。
他者からの批判や悪意に、漫然と立ち向かえる人間になれたらどんなにいいかとつい考えることもあるけれど、それでも、傷つくべきときにきちんと傷つける人間でありたいと、私は思う。どうしても。
もっと楽しく生きていたい。
もっと自分らしく生きていたい。
そう思うから、その思いを伝えたいだけなのに、この世の中はなかなかどうして、難しいものである。
ねぇ、あなたは、どう思う?
「匿名」という名の戦争の中で、どう生きる?
誰として、生きる?
どんな人間として、言葉を残す?
私はいつも、自分自身にそう問いかける。
問いかけずにはいられないのだ。
夜寝る前、目を閉じると浮かぶのは、黒背景紙。
写真を撮影するときに使うような、本当の、真っ黒。
その上に浮かぶのは、白い歯。まっすぐに並び、ニヤニヤと歪んでいく、三日月型の唇。
囁く声。
「バカじゃないの?」
嘲笑う、声。
この声が聞こえているのは、私ひとりではないということを。
「強くなりたい」
その声が聞こえるたびに強くなりたい、強くなりたいと呪文のように呟いて、なんとか自分を励ましながら毎日を生きているのは、私ひとりではないということを。
切に、願う。
そして私は、いつもと同じように、ぎゅっと強く、目をつむる。
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。