「世の中をあっと言わせる企画を作りたい」「自分の夢を仕事で実現させたい」「ユーザーの気持ちがわからない」「企画書が通らない」「プロジェクトを成功させる方法が知りたい」など商品開発や新規事業を生み出す上でのあらゆる悩みを解決!
本連載の著者は「千に三つ」や「一生涯一ヒット」と言われる食品(飲料)業界において「氷結」「スプリングバレーブルワリー」「淡麗」「キリンフリー」など数々のヒット商品を生み出してきた和田徹氏。実は入社から12年間、ヒット商品ゼロだったという著者。なぜ、失敗だらけだった人が、ヒット商品を量産できるようになったのか? 売れ続ける商品づくりの全技法を明かしたのが『商品はつくるな 市場をつくれ』(3月15日刊行)という書籍です。刊行を記念し、本書の一部を特別に公開します。
「一番搾り」「氷結」「キリンフリー」……ネーミング必勝法
「コンセプトを、そのままネーミングにする」のが、私のよく使うネーミング開発手法のひとつです。
あれこれ言葉をいじくり回してみても「とってつけたような」「聞いたことのある」ネーミングにたどり着くことは少なくありません。あるいは、出口の見えない「ネーミング地獄」にハマってしまい、何百ものしっくりこない候補案の海原に溺れることもあります。
それよりも原料や製法、特性といった商品の事実(ファクト)やコンセプトをそのままネーミングにする。これが必勝法です。「一番搾り」「淡麗」「キリンフリー」はすべてこの方法です。他にも「キシリトール(ガム)」などがあります。
「氷結」ネーミング秘話
「氷結」も、コンセプトと商品自体から着想してネーミングになった実例です。
それまでのチューハイは、果汁をいったん濃縮し、容量を減らし、運搬や保管コストを節約していました。そして、使用するときに水を加え、元の果汁の容量に戻していたのです。
「濃縮還元果汁」と呼ばれるものです。コストや効率は良いものの、果汁のみずみずしさやフレッシュな良い香りが損なわれるのがネックです。
そこで「氷結」は、コストと手のかかる「ストレート果汁」をチューハイ類で初めて採用しました。濃縮還元の工程を一切経ず、搾りたての果汁を瞬間凍結して使っています。
「果汁をそのまま氷結させた」のだからダイレクトに「氷結果汁」で行こう。それが開発リーダーだった私の発想であり、結論でした。
似たような言葉に「凍結」がありますが、これは一般的すぎるので却下。ありそうでなかった「氷結」を選びました。その語感からは、冷たい「氷」のイメージも。一度聞いたら忘れにくい、覚えやすさもあります。
所有できる言葉を探す
他にないユニークな言葉は、その商品やブランドが所有できる可能性が高いです。「氷結」といえば、キリンのチューハイでしかありえない。つまり「氷結」という言葉は、所有できるのです。
また、そこに開発途中で加わったのが、革新的な新形状のアルミ缶「ダイヤカット缶」でした。シャープでエッジのあるシェイプは「氷結」のイメージとぴったり。「そのネーミングで絶対にイケる!」確信を深める大きな要因になりました。
氷のようにシャキーンと冷たい世界観に仕上げていけば、ネーミング、パッケージ、イメージ、味わいなどのすべての要素が一気通貫するような大きな可能性を感じました。
キリンがチューハイ市場に参入する勝負球は「キリンチューハイ氷結果汁」しかない。そう満場一致で決まりました。
コンセプトに最適な言葉、ネーミングに最適な言葉とは?
発売後「氷結果汁」は大ヒット商品となったものの、社会的に大きな影響力を持ってしまった商品であるがゆえ、ある重大な指摘を受けました。
それは「果汁」で止めた商品名だったことから、未成年やお酒の飲めない人たちがジュースと間違えて誤認・誤飲する危険はないかという指摘です。
緊急協議を重ね、社会的責任を果たすため商品名の変更を決定しました。発売1年足らずで「氷結果汁」は「氷結」になりました。これは、ネーミング大賞など数々の賞を受賞した大ヒット商品としては、異例でした。
ただ、これは結果論ですが「氷結」という2文字の商品名のほうが、短くてキレもよく、定着しやすいネーミングだったのかもしれません。
つまり「氷結果汁」はコンセプトとして最適だったが、それを商品としてブランド化するには「氷結」がより強力だったということです。
現に「氷結」は2001年7月の発売以来、20年を超えて、チューハイ・カクテル飲料市場のド真ん中ロングセラーブランドとして快走中です。
(本原稿は、和田徹著『商品はつくるな 市場をつくれ』を編集・抜粋したものです)