トランプ時代「第三次世界大戦危機」から「中東和平」に転換

 このようなトランプ氏の、相手を挑発しながら交渉を進めていくという手法は、2018年からのイランとの対立によって引き起こされた「第三次世界大戦危機」からもうかがえる。

 トランプ政権がイランとの核合意から離脱したことに端を発した両国の緊張は、イラン側が米国の無人偵察機グローバルホークを撃墜、その報復としてトランプ大統領が攻撃を承認するも直前に中止、なんてことを繰り返していくうちにじわじわと高まった。そして、2020年1月にアメリカがイラン革命防衛隊の司令官を殺害したことで一気に悪化。世界各国のツイッターのトレンド上位に「WWIII」「worldwar3」「Iran」「Trump」などが相次いでトップを占めた。

 しかし、こちらもギリギリのところで戦争は回避できている。それどころか、この対立でシーア派の拡張路線を抑えたトランプ氏は、イスラエルがアラブ首長国連邦(UAE)など4カ国との外交関係を樹立するという、これまで誰もできなかった新たな「中東和平」の道にこぎつけた。

 この政策が正しいか、間違っているのかという議論はここでは脇に置く。

 筆者がここで強調したいのは、長い歴史の中で対立や戦争を繰り返してきた中東で、これだけ緊張を高めながらも自分の望む結果にこぎつけて、かつ巧みに戦争を回避したということだ。

 あのようなキャラクターがゆえに過少評価されているが、多くの人から「トランプが大統領だったらこんな戦争は起きなかった」という主張が一定の説得力をもって語られているのは、トランプ氏が、自画自賛しているように「取引(ディール)の天才」という部分が確かにあるからだ。

 そこで次に気になるのが、なぜ「トランプ流交渉術」ならば、ロシアの侵攻を食い止めていた可能性があるのかということだろう。