このような大きないくつもの変化を背景に(コーポレートガバナンスの形式を整えるといった制度的な小手先の変革でなく)、企業の組織運営システム(水平型なのか分権型なのか、それ以外なのか)の在り方と、経済主体(人や組織)の意思決定そのものが変わらざるを得なくなりつつある。水平型を前提とした個人の可塑的技能への投資は、大きく変化するだろう。つまり総合職人材を育てる企業は少なくなるということである。

「ある一つの進化的均衡から他の進化的均衡への移行のために最低限必要な、突然変異の総人口に占める比率を、前者から後者への『移行費用』と呼ぶ。一つの進化的均衡から他の進化的均衡への移行はかなりのサイズを以って一塊の集団(critical mass)による『同時的』変異によってもたらされる」

 あるシステムから別のシステムへの変更には、それなりの人数がそのシステムに一斉に鞍替えしなければ行われない(この一斉の鞍替えを移行費用という)。グローバル化によるジョブ型の導入とリモートワーク時代の到来という2つの力が同時に加わり、クリティカルマスは超えられた、つまり社会が変わるのに必要な程度の大多数の人がシステムの鞍替えをしようとしているのではないか。

最適な均衡点はどこか?
模索が続く日本の経済システム

 ただ、この先どのような均衡点に移動するのかは、まだ見えていない。本書では、旧来のアメリカ型でもなく、日本型でもないところに、どの産業セクターにとっても良いP均衡(パレート最適)と呼ばれる均衡点、すなわち、ちょうどよい状態の経済やシステムの状態が、理論上は存在していることが示されてはいる。

 過去の均衡点からどこか別の均衡点に移動し落ち着くまでの間、日本の経済システムは相当大きな混乱に陥ることになるだろう。ただ、その混乱は政府の政策がまずいからでも、外国の陰謀でもなく、システムが形を変えて生き残るために避けては通れない道であり、肯定的に評価できるものなのである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)