今、米中の緊張関係は外交上の大きな関心事だろう。日本人はどこか呑気なところがあって、中国が攻めて来ても、日米同盟を根拠に米国が守ってくれると思っている人も多いかもしれない。しかし、中国が台湾に侵攻すると、日本は事実上米中対立のフロントに立つことになる。そのとき日本はどうすればよいのか。また、今回のコロナ禍のようにこれまで経験したことのない複雑な要素が絡み合った事態に対処するための意思決定はどうあるべきなのか。
そのヒントになるのが、のちにハーバード行政大学院の初代院長を務めた米国の政治学者グレアム・アリソンによる、『決定の本質』(1971年初版刊行。その後に判明した事実などを踏まえ、フィリップ・ゼリコウとの共著として、全面改訂第2版が1999年に刊行)である。第二次大戦後のアメリカ合衆国(米国)とソビエト連邦(ソ連)の冷戦時に、最も核戦争の危機が高まったキューバ危機における意思決定を解き明かした書だ。今回はこの論考を読み解き、外交問題や高度な意思決定のあり方を考えてみたい。
米ソ対立が極限状態に達した
キューバ危機はなぜ起こったか
約60年前の1962年10月、米国を中心とする資本主義を奉ずる国々(西側)と、ソ連を中心とする共産主義の国々(東側)が対立した米ソ冷戦構造の世界情勢の中で、キューバ危機という出来事があった。ソ連が友好国キューバで核ミサイルの配備を秘密裡に進めていたのだ。
キューバは米国の隣国である。ミサイル基地完成直前にそれを関知した米国は、キューバへの軍事侵攻を含むあらゆる対抗手段を検討した。ミサイルが配備されれば、核攻撃が避けられなくなる。しかし、米国がキューバに侵攻すれば、それに対抗して、ソ連はヨーロッパで西側諸国を攻撃するなど、各地に戦火が飛び火し、世界中で全面核戦争が引き起こされる可能性があった。その可能性は当時の米国大統領ケネディいわく、「3分の1から2分の1の間」であり、本当に世界は絶壁に立っていたのだ。
結果的に、米国がキューバ近郊の海上封鎖を行い、キューバへの軍事侵攻の準備を進めたために、ソ連のリーダー・フルシチョフ書記長が(それに恐れをなして)キューバからの核ミサイルの撤去を表明し、事態は終息することになった。