現在の職場で「無能」「できないヤツ」扱いされており、環境を変えたくても転職する勇気がなかなか出ないという人もいるでしょう。『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』の著者である北野唯我さんは、努力しているのに「無能」という評価から抜け出せない人には、二つの要因があると語ります。今回は、『戦国ベンチャーズ― 人事の天才・徳川家康と曹操に学ぶ、「強みの経営」とは?ー』、『仕事の教科書 きびしい世界を生き抜く自分のつくりかた』の著者であり、組織戦略の専門家である北野さんに、理不尽な人事評価の理由とその脱却法について聞きました。(取材・構成/川代紗生、マンガ/松枝尚嗣)
がんばっても報われないのは「努力」の定義を間違えているから
──いまの職場で無能扱いされており、転職するのが怖いという人も多いと思いと思います。がんばっているのに「できないヤツ」「無能」という評価をされてしまう人には、どんな共通点があげられるでしょうか。不器用な人ほどアピールが苦手で、損しがちな印象もあるのですが。
北野唯我(以下、北野):頑張っているのに「無能」というレッテルを貼られてしまい、抜け出せずにいるのには、二つの要因が考えられると思います。
一つは、「努力の定義を間違えている」というパターン。現場で仕事をする人は、どうしても「努力」や「熱意」を評価してもらいたがるんですよ。でも、お金を払う側・雇用側が求めているのは見せかけの「努力」ではなく「工夫」なんです。自分の頭を使って工夫し、きちんとバリューを生み出してくれるかどうかを評価する。
──なるほど……。自分のイメージする「努力」と、雇い主側がイメージする「努力」に乖離があるから、「努力しているはずなのに評価してもらえない」と感じてしまうんですね。
北野:たとえば、窓ガラスに何度も何度もぶつかって外に出ようとしている蚊がいたとしたら、見ている側としてはちょっと残念な気持ちになるじゃないですか。「別のルートを探せばいいのに」とか思っちゃいますよね。
それと一緒で、同じことを同じように続けているだけでは「工夫」がないから、評価する側としてはやきもきしてしまうんです。
──その場合、どう対処したら良いでしょうか。
北野:「WHAT」と「HOW」を少しずつ変えていくことを意識するといいと思います。つまり、「何」の仕事を、「どう」こなすか。このどちらかに、新しいやり方を取り入れてみるんです。いきなり二つとも大きく変えると混乱するので、たとえば普段のやり方とは別の「HOW」はないかと探してみるとか、ふだんとは別の業務に挑戦するとか、ちょっとずつ変化を入れていく。そうすると、「ここを変えればこんなふうに結果が変わった!」と、工夫のコツも見えてくると思います。
理不尽な評価の要因を見極める
──二つ目はどんなパターンでしょうか。
北野:「誰から評価を受けるべきなのか」を間違えているパターンです。「有能か無能か」というのは、他人からの評価ですよね。評価とは本来、相対的なものですから、「絶対的な無能」というのは存在しないはずなんです。世界中の誰が評価しても「無能」というのは基本的にはあり得ないですよね。だから、相手によって自分の評価は異なって当然なわけです。「評価を受けるべき相手や環境」を間違えると、実力よりもはるかに低い評価を受け続けることもあるんですよ。
──『マンガ 転職の思考法』でも、自分が生き生きと楽しく働ける職場は、バランスが重要というお話がありましたね。
──なんだか、会社や上司から過剰な要求をされたために、たった一人の評価や発言が受け手のなかでどんどん大きくなって、「自分は完全に無能だ」と自信喪失してしまうというケースもありそうですよね……。
北野:そうなんです。一度「できない」という評価を受けたインパクトがずっと忘れられなくて、自分自身で「無能」のレッテルを貼り続けてしまっている可能性もある。
でも、『戦国ベンチャーズ』でも書きましたが、織田信長や曹操など、若い頃に無能扱いされていたのを実力で覆して、名のある武将になった人たちもたくさんいますからね。逆に考えれば、評価してもらう相手を変えるだけで、評価や働きやすさがガラッと変わることも充分あり得ます。一度貼られた「無能」のレッテルがすべてだと思いこまずに、自分のやりたいことや転職先、環境を見極めるのが大事だと思います。
──具体的に見極めるには、本にも書かれていたような理論を活用するのが良いでしょうか?
北野:そうですね、なるべくいろいろな人の役に立てるようにと、再現性の高い理論に落とし込んだので、ぜひ活用してもらえたら嬉しいです。私自身、多くの経営書やビジネス書を読んできて感じるのは、読書とは、自分の寿命を超えて知に触れられる唯一の方法だ、ということ。理論は寿命を超え、地に立つための第一歩です。だからこそ、私の本が50年、100年、200年後と、ずっと先の未来でも人々の役に立ちますようにと強く願っています。読者のみなさんがこの本を使って、「自分にも強みはあるんだ!」と思えるようになってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。