新卒でベンチャー企業に入って正解だったのか。もしかしたら大企業に入っていた方がマーケットバリューを上げられたのでは? そんなふうに悩んでいる人はいませんか。「職業人生の設計」専門家である北野唯我さんは、ベンチャー向きか、大企業向きかを見極めるにはポイントがあると語ります。20万部のベストセラー待望のマンガ版『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』や、「戦国武将の人事戦略」に焦点を当てた異色の経営本『戦国ベンチャーズ― 人事の天才・徳川家康と曹操に学ぶ、「強みの経営」とは?ー』仕事の教科書 きびしい世界を生き抜く自分のつくりかたなど、著書が続々と話題を呼んでいる北野さんに、キャリア設計の方法について聞きました。(取材・構成/川代紗生、マンガ/松枝尚嗣)

30歳「大企業とベンチャー」幸せになれるのはどちらか?Photo: Adobe Stock

上限値と下限値のどちらをとるのか?

──「結局、ベンチャー企業と大企業、新卒入社して成長できる可能性が高いのってどっちなの?」というのは、就活する上で誰もが一度は考える問いではないかと思います。転職市場でのマーケットバリューが上がるのかどうか、転職後に活躍できるかどうかも含めて、北野さんの考えをお聞かせください

北野唯我(以下、北野):これ、みんな悩む問題ですよね。「その企業による」のは大前提として、可能性の話をしますね。私は、この大企業を選ぶかベンチャーを選ぶか問題は、「上限値と下限値のどちらをとるのか」に尽きると思うんです。

──上限値をとるか、下限値をとるか?

北野:つまり、大企業に入るメリットは「下限値が高くなる」こと。対して、ベンチャー企業に入るメリットは「上限値が高くなる」ことだと思うんですよね。たとえば、大企業では研修システムなどもしっかりしているので、社会人としての基本を徹底して叩き込まれます。大企業に10年働いていて、挨拶や名刺交換ができない人ってあまりいないじゃないですか。

──たしかに。

北野:でも、ベンチャー企業だと、研修もそこそこでいきなり現場に放り出され、自分で模索しながら仕事の仕方を覚えなければならない場面も多々ある。だから、きちんとした挨拶やメールの仕方を知らない人も意外と多いんですよね。

 要するに、大企業の場合、入社すればある程度のスキルは磨くことができるという安心感はある。けれどそのかわりマニュアルが固定されていることや裁量が少ないことも多く、得られるスキルの上限値も低い。

 ベンチャーの場合、自分で試行錯誤して努力しなければ初歩的なスキルすら身につかないリスクはあるけれど、そのぶん成長できる可能性は自分次第で無限大にある。

徳川家康に学ぶ「大器晩成型」キャリア

──北野さんは、新卒は大企業の博報堂に入社し、その後、ボストンコンサルティンググループを経て、ワンキャリアに参画……と、大企業からベンチャー企業へと環境を変えられていますよね。それにはやはり、上限値を上げたいという狙いがあったんですか。

北野:私の場合は昔から、「32歳までに出版して、それをベストセラーにしたい」という目標があったんです。実際、30歳で『転職の思考法』を出版でき、それが20万部を突破したので、無事に狙いどおりになったわけですが、ずっと大企業にいたらきっと無理だっただろうなと思いますね。会社にも止められていたでしょうし。やっぱり自由にいろいろ挑戦してみたいと思うのならば、大企業は向かないのかなと思います。

──ただ、ちょっと怖いですよね。ベンチャー企業の場合、挑戦はできるけど、自分で動かなければ何のスキルも身につかず、ビジネスパーソンとしての市場価値が上がらないまま年齢だけ重ねていくことになるかもしれない。上限値が無限大なぶん、下限値も無限大なのではないかと……。『マンガ 転職の思考法』には、主人公の奈美が自分のスキルをはっきりとアピールすることができず、愕然としたシーンもあり、読んでいてドキッとしました。

北野:ええ、それはあるていど覚悟のうえで選んだ方がいいかもしれませんね。あとは、「人生のピークを何歳で持ってきたいか」という考え方もいいと思いますよ。たとえば、『戦国ベンチャーズ』でも書いたのですが、徳川家康はキャリア構築の名手でした。現代でいうところの人生100年時代の生き方を誰よりも先に理解し、学習し続けた結果、60歳で天下統一をした。彼のように、人生の前半は着実にキャリアを積み、後半で勝負に出る、というやり方もあると思います。

──おお、家康、すごいですね。そう言われるとなんだか自分もまだまだがんばれそうな気がしてきました(笑)。

北野:プライベートの時間を大切にしたいから、安定してスキルアップでき、それなりに稼げる仕事がいいという人は、大企業のほうが向いているでしょうしね。

 いずれにせよ、新卒でも中途でも、上限と下限のどちらを選ぶのかを軸に、キャリアを構築してみるといいのではないでしょうか。