『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』や、「戦国武将の人事戦略」に焦点を当てた異色の経営本『戦国ベンチャーズ ― 人事の天才・徳川家康と曹操に学ぶ、「強みの経営」とは?ー』、最新刊『仕事の教科書 きびしい世界を生き抜く自分のつくりかた』など、著書が続々と話題を読んでいる北野唯我さん。経営者でありながら、自身も大企業からの転職経験者でもあります。
転職者が増えるこの時期、30歳がぶつかる転職活動の壁と、その乗り越え方について聞いてみました。(取材・構成/川代紗生、マンガ/松枝尚嗣)
大事なのは「強いメンタル」ではない
──30歳前後で転職を考えるという人も多いと思います。北野さん自身は、面接で人材を見極めるためにどんな「判断軸」を設けていますか。優秀な人材とそうでない人材を見分けるためのポイントなどがあれば教えてください。
北野唯我(以下、北野):どのような目的で人材を選ぶのかによっても見るポイントは変わりますが、マネージャー候補などトップで活躍してもらいたい人材の採用をするときは、「修羅場経験の有無」については必ず確認しますね。数年前に『HARD THINGS(ハード・シングス)』という本も話題になりましたが、やはり「ハード・シングス」=「困難な局面や状況」を乗り越えてきたかどうかは、ビジネスパーソンのレベルを大きく左右します。経営の世界でも、「修羅場経験のみが経営者を育てる」と言われることも多い。
──「修羅場経験の有無」は、マネージャーや管理職としてのどんな場面に影響があるのでしょう?
北野:修羅場経験は、レジリエンスを強くする効果があるんですよ。私は、第一線で活躍する人材には、この「レジリエンス」が必須だと思っていて。
──レジリエンス。「回復力」とか「弾力性」とか……そんな感じの意味でしょうか。
北野:はい。つまり、メンタルが弱ったり辛い状況にあったりしたとき、いかにすぐ元のコンディションに戻すことができるか、ですね。優秀と言われるビジネスパーソンには、共通してこの「立ち直りの早さ」=「レジリエンス」があります。
よく、「メンタルが強い」ことが重要、という人がいますが、私はそれは本質ではないと思っていて。周りを引っ張っていくリーダーやマネージャーに必要なのは、何があっても傷つかない強靭なメンタルではなくて、一度落ち込んでもすぐに立ち直って元のパフォーマンスを発揮できる「レジリエンスの能力」なんです。
30歳、転職成功の鍵は「修羅場経験」にあり
──なるほど。修羅場を乗り越えた経験のある人材は、何か困難な状況に陥ってもすぐに自分のコンディションを取り戻し、安定したパフォーマンスを出してくれる可能性が高いんですね。では、転職時の面接でも、そういったエピソードは強みになるのでしょうか。
北野:大きな強みになると思いますよ。転職に迷う多くの人は、法人営業やマーケティング、プログラミングといった職種に紐付く「専門性」のほうにばかり目を向けて不安になりがちなのですが、職種に紐付かない「経験」も大きな価値になります。
──『マンガ 転職の思考法』にも、武器としての「経験」の重要性がたびたび説かれていました。主人公の奈美も、30歳目前にして何も専門性がなく焦っていましたが、「経験」を棚卸ししたことで突破口が見えましたよね。
北野:経験のなかでも、「修羅場経験」は高く評価されると思います。修羅場経験というと、典型的なのは「赤字事業の黒字化に携わった」などでしょうか。でも、そこまでの修羅場ではなくとも、成果に対して粘り強く前向きに仕事ができたか、チームを率いようとしたか、時間がかかっても諦めずしっかりとコミットしたかなどを具体的に話せれば、十分アピールポイントになると思います。
──逆に考えると、ビジネスパーソンとしての市場価値をぐっと上げたい、もっと収入のよい仕事を見つけたいと考えたとき、ある程度の修羅場経験がないとなかなか厳しいかもしれませんね。
北野:そうですね、うまく転職できたとしても、転職後に困る可能性もありますからね。やはり収入の高い仕事になればなるほど責任も重くなり、大きな仕事を任される可能性は高いですから、修羅場経験がないままいきなり大きなトラブルにぶつかったりすると、心が折れるかもしれませんし。
そういう不安がある人は、まず転職する前に新しい部署・職種にチャレンジして、「プチ修羅場経験」を段階的に積んでいくのがいいと思います。「レジリエンス力」を少しずつ高めていければ、おのずと市場価値も上がっていくはずです。