「不安をあおる」と非公表

前回に引き続き、情報公開で入手した行政文書や筆者自身の体験もふまえて、このアスベスト飛散事故がどのように「典型的」だったかを俯瞰する。今回は住民説明における対応である。

 8月30日、NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏が宮城県石巻市の解体中だった元店舗をたまたま訪れ、アスベストが散乱する現場を確認して、行政に通報した。これによってこの現場のアスベスト飛散事故が発覚する。

 情報公開請求によって入手した宮城県石巻保健所の資料には、保健所が石巻市に事態の重要性から事件の公表を迫る様子が記載されている。

 事故発覚当日の8月30日夕方、石巻労働基準監督署と保健所、石巻市、元請けの菅野工務店(宮城県石巻市)の4者が集まって、今後の対応を協議している。その際の面談記録によれば、石巻市災害廃棄物対策課の担当者が「現在のところ、アスベストが除去されずに工事が行われたことについて、付近住民への説明を含めて情報を公開することは考えていない」と発言している。

 これに対し指導官庁である保健所は「初期の段階で公表を検討すべきではないか」と指摘した。

 しかし市の担当者は「課長と協議し、現段階での情報公開は住民の不安をあおるだけではないかとの結論になった」と拒否した。

 飛散事故を隠ぺいするほうがよほど「不安をあおる」はずだが、市にはそのような認識はないようだ。

 保健所の面談記録には、市の担当者が「再度検討する」とも発言したことが記載されているが、その後も市はこの件について公表しなかった。

 事故の当事者が行政の場合、通常ならまず当事者の自治体が事実関係を公表し、その後、指導官庁が指導内容を発表する。ところが、今回の飛散事故では、当事者の石巻市が何の発表もしないまま、9月3日に宮城県が飛散事故の発生についてプレスリリースを出すという異例の事態となった。

 事故について公表すらしないという対応ぶりからも、石巻市の今回の事故における後ろ向きの姿勢がうかがえる。住民に対する説明ぶりからは、事態の沈静化をねらって、事故を極力小さく見せようとの意図が露骨だった。