相次ぐアスベスト飛散事故を引き起こす要因はいったい何か。その構造的な問題を、被災地の石巻市で起こったアスベスト飛散事故の背景を分析することで、あぶり出していく。第1回目は、「典型例」な飛散事故として再三にわたり地元行政に報告と指摘が伝わっていたにもかかわらず、いつの間にか「特殊事例」にすり替わっていた顛末を解説する。

解体現場に散らばるアスベスト

 また被災地でアスベスト飛散事故が起きた。

 10月25日、厚生労働省は東日本大震災の被災地でアスベスト除去が適切に行われなかった結果、これに続く解体工事でアスベストを飛散させてしまった事例が報告されたとして、関係団体に再発防止を求める通知を出した。

 通知には宮城県石巻市で8月に起こったアスベスト飛散事故の概要が示されている。それによれば、アスベストを〈取り残しているところは鉄骨の柱に吹き付けをして、さらにモルタルの化粧壁で仕上げ、その後コンクリートブロックで覆っている状況であった〉などの特殊事情があったから、飛散事故につながったとしている。

 通知はそうした特殊事情を説明・周知するとともに、アスベスト除去工事に先立つ事前調査で、見落としやすい例を列挙して注意を促している。

 だが、アスベストの調査・分析に詳しい専門家で、NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう警告する。

「国はこの件を特殊な事例と説明していますが、まったく違います。今回の件は明らかに典型例です。国は通知まで出して再発防止を求めていますが、これでは同じことがまた起きます」

 いったい、どういうことなのだろうか。まず、厚労省が通達を出すことになった経緯から説明しよう。

 アスベスト飛散事故が起きた現場は石巻駅からもほど近い、商店街に位置する店舗跡地。昨年の東日本大震災とそれにともなう津波によって、外壁が割れ落ちるなどの被害を受け、所有者からの申し込みにより石巻市が解体することになった。

 建物に吹き付けアスベストが確認されたため、今年3月に除去工事が実施され、その後8月から解体工事が始まった。

 ところが、解体工事中の8月30日、吹き付けアスベストが散乱していると通報があり、石巻労働基準監督署が現場に急行。その事実を確認し、工事を中止させた。