今回のロシアによるウクライナ侵攻のように、大きな国際的な出来事が起きるたびに、世界史の知識不足を痛感する。そんな人は少なくないだろう。グローバル化が進むなか、他国の情勢はもはや他人事では済まされない。そんななか、国際社会を生き抜くための一冊が翻訳出版された。全世界で700万人に読まれたロングセラーシリーズの『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』である。本村凌二氏(東京大学名誉教授)「人間が経験できるのはせいぜい100年ぐらい。でも、人類の文明史には5000年の経験がつまっている。わかりやすい世界史の学習は、読者の幸運である」、COTEN RADIO(深井龍之介氏 楊睿之氏 樋口聖典氏・ポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」)「ただ知識を得るだけではない、世界史を見る重要な観点を手に入れられる本! 僕たちも欲しいです」、佐藤優氏(作家)「世界史の全体像がよくわかる。高度な内容をやさしくかみ砕いた本。社会人の世界史の教科書にも最適だ」と絶賛されている。どうしても関心を持ちにくい世界史について、楽しく学ぶにはどうすればよいのだろうか。本書の帯に推薦の辞を寄せた、東大名誉教授で歴史学者の本村凌二氏にインタビューを行い、世界史の効果的な学び方を聞いてきた。(取材・構成/真山知幸

【東大名誉教授が教える】ルイ16世より徳川慶喜が評価される意外すぎるワケPhoto: Adobe Stock

世界史の面白さを味わう方法

――まさに今回のウクライナの問題のように、差し迫った問題に直面して初めて世界史を学ぶ重要性に気づかされます。普段から世界史に関心を持つにはどうすればよいでしょうか。

本村凌二(以下、本村):世界史になかなか興味がわかないのは、仕方がないと思います。他国よりも自国の歴史のほうが身近だし、古代よりも近代のことのほうが自分事として考えやすい。それはごく自然のことです。

 裏を返せば、自国の歴史と比較することで、世界史の面白さがみえてきます。例えば、フランス革命と明治維新を比較してみると、ルイ16世と徳川慶喜のふるまいの違いに気づかされます。

 ルイ16世はフランス革命が起きたことで、ギロチンで斬首刑にされてしまいます。しかし、人間としては善良な性格でした。立憲君主政も理解した上で、貴族や民衆の意見として取り入れようとした傾向さえあります。

 ただ優柔不断な性格が命取りとなってしまいました。革命の機運が盛り上げるなか、ルイ16世は家族とともに、オーストリアに亡命しようとします。これが国民の不信感につながり、大きなうねりを生み出すことになったのです。

慶喜とルイ16世を比較する

――大事な場面で逃げ出して信用を失った、といえば、まさしく幕末の徳川慶喜を思い浮かべますが……。

【東大名誉教授が教える】ルイ16世より徳川慶喜が評価される意外すぎるワケ本村凌二(もとむら・りょうじ)
東京大学名誉教授。博士(文学)
熊本県出身。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、早稲田大学国際教養学部特任教授(2014~2018年)。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』(東京大学出版会)でサントリー学芸賞、『馬の世界史』(中央公論新社)でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著書は『はじめて読む人のローマ史1200年』(祥伝社)『教養としての「世界史」の読み方』(PHP研究所)『地中海世界とローマ帝国』(講談社)『独裁の世界史』『テルマエと浮世風呂』(以上、NHK出版新書)など多数。

本村:日本人の感覚からするとそうですよね。ところが、フランス革命の研究者は「慶喜の判断は賢明だった」という見解を持つことが珍しくありません。

 慶喜がもし現場から逃げ出さずに、陣頭指揮をとり続ければ、日本最大の内戦となったことは間違いないでしょう。慶喜がどこまで意識的だったかはわかりませんが、彼は諸外国の代表と渡り合い、外交面ではリーダシップを発揮していました。諸外国につけ入られてはいけないという意識は持っていたことでしょう。だからこそ、自ら権力も投げ出して「大政奉還」も行ったわけです。

 国から逃げ出してしまったルイ16世と比較することで、慶喜が実は英断を下していたことがわかります。こうして日本史の解釈が一変するのも、世界史を学ぶ醍醐味の一つです。

――世界史の観点からみることで、日本史で起きたことを深く理解できるのですね。世界史を学ぶときは、何から始めればよいですか。

本村:世界史はとにかく扱う範囲が広いので、まずは入門書を読破することです。イラストが豊富でビジュアルでわかりやすい『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』は、お勧めしたい入門書の一つです。

 ただし、一度読むだけではなく、繰り返し読むことが大切です。1回目と2回目では、まるで世界史の見え方が変わっているはずです。日本史と比較すべき点も、読めば読むほど発見できることでしょう。

 世界史の入門書を徹底的に読み込むことで、現在の国際情勢を深く理解する土壌が形作られる。私はそんなふうに考えています。

【東大名誉教授が教える】ルイ16世より徳川慶喜が評価される意外すぎるワケ