どんな規模の組織でも、リーダーを経験したことがある人ならば、チームを率いることの難しさを感じたことがあるはずだ。グローバル化が本格化するなかで、リーダーシップを発揮するための格好のお手本となるのが、「世界史の英雄たち」である。世界史には馴染みがなくて……という人のために、『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』が翻訳出版された。全世界で700万人に読まれたロングセラーだ。本村凌二氏(東京大学名誉教授)「人間が経験できるのはせいぜい100年ぐらい。でも、人類の文明史には5000年の経験がつまっている。わかりやすい世界史の学習は、読者の幸運である」、COTEN RADIO(深井龍之介氏 楊睿之氏 樋口聖典氏・ポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」)「ただ知識を得るだけではない、世界史を見る重要な観点を手に入れられる本! 僕たちも欲しいです」、佐藤優氏(作家)「世界史の全体像がよくわかる。高度な内容をやさしくかみ砕いた本。社会人の世界史の教科書にも最適だ」と絶賛されている。世界史を紐解いてみたときに、どんなリーダーから何を学ぶことができるのだろうか。本書の帯に推薦の辞を寄せた、東大名誉教授で歴史学者の本村凌二氏にインタビューを行い、リーダーの資質について話をうかがった。(取材・構成/真山知幸

【東大名誉教授が教える】ローマの英雄カエサルに学ぶ「優れたリーダー」の共通点とは?Photo: Adobe Stock

人物から世界史に親しむ

――世界史は日本史と比べると、なかなか勉強するきっかけがつかめません。世界の情勢を形作っている、他国の歴史的背景を学びたいという思いはあるのですが……。

本村凌二(以下、本村):織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった日本史のリーダーを思い浮かべると、すぐに顔が出てきますよね。性格についても、信長は短気だけど創造性に富み、秀吉は人に取り入るのがうまく、家康は我慢強い……など、大体のイメージがつきます。

 しかし、世界史の場合は、歴史人物のイメージが定着していません。それが、世界史にとっつきにくさを感じてしまう理由の一つだと考えています。

 歴史を作ってきたのは人間です。世界史を作ってきた歴史人物は、どんな判断のもと、どんな行動をし、どんな功績を残したのか。そんな点に注目しながら、人物で世界史を読み解いていくのは、世界史に関心を持つきっかけになることでしょう。

――世界史で活躍する人物のなかで、先生は誰が好きですか。

本村:人間には、いい面もあれば悪い面もあります。そのため、人物について詳しく知れば知るほど、手放しに賛美はしにくくなりますが、古代ローマの英雄カエサルはリーダーにふさわしい人物だったと思います。

 カエサルには高いカリスマ性と寛容さ(クレメンティア)がありました。もっともガリア人に対しては必ずしも寛容ではなく、残酷な一面もありましたが、少なくともローマ市民に対しては寛容さを持っていたといえるでしょう。

【東大名誉教授が教える】ローマの英雄カエサルに学ぶ「優れたリーダー」の共通点とは?本村凌二(もとむら・りょうじ)
東京大学名誉教授。博士(文学)
熊本県出身。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、早稲田大学国際教養学部特任教授(2014~2018年)。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』(東京大学出版会)でサントリー学芸賞、『馬の世界史』(中央公論新社)でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著書は『はじめて読む人のローマ史1200年』(祥伝社)『教養としての「世界史」の読み方』(PHP研究所)『地中海世界とローマ帝国』(講談社)『独裁の世界史』『テルマエと浮世風呂』(以上、NHK出版新書)など多数。

 また、「寛容さ」以上に、カエサルがリーダーとして特筆すべき点があります。それは「捨て身」になれたことです。カエサル自身も、そしてカエサルが憧れたアレクサンダー大王も、戦争が始まると、自ら先陣を切って戦っています。

世界史の英雄たちの共通点

――確かにリーダーが最前線で戦ってくれると、周囲は頼もしさを感じます。ただ、リーダーをいきなり失うリスクを考えると、必ずしも得策ではないのではないでしょうか。

本村:リーダーがやられてしまっては、元も子もありませんからね。それでも優れたリーダーには「勝負所で捨て身になれる」という共通点あります。だからこそ、多くの人々に支持され、信頼を勝ち得ているのです。

 今の日本の政治家が物足りないのは、まさにその「捨て身になれる」という精神ではないでしょうか。「捨て身になれる」ということは「いざとなったら責任をとる」ということにほかなりません。世界史を学ぶと、英雄たちには一貫してそういう態度が見られるように思います。

 もっとも私がカエサルについて、そんなふうに感じるようになったのは、自分自身が年を重ねてからのことです。人生経験を積むことで、歴史人物の受け止め方も変わってきます。そんな自分の変化を感じられるのも、世界史を勉強する大きな楽しみの一つといえるでしょう。

――世界史を学ぶ際に、時代を率いてきた英雄の行動に着目することで「組織のリーダーとは、どうあるべきか」が見えてくるのですね。世界史を学ぶときのコツは何かありますか。

本村:一念発起して難しい本にチャレンジしようとすると、挫折しやすい傾向があります。世界史はかなり広範囲を扱うので、高校で習うレベルの世界史をざっと理解しておく程度で十分です。

 コツとしては「世界史の入門書を何度も繰り返し読む」ということ。『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』は「世界史の超入門書」として通読しやすい一冊です。

 躍動する英雄たちを感じながら入門書を読み込んでいるうちに「世界の各国でどんな動きがあったのか」という一連の流れが頭に入ってきます。世界史の基礎知識を身につけることで、現在の国際情勢を理解する、大切な手がかりを得ることができるでしょう。

【東大名誉教授が教える】ローマの英雄カエサルに学ぶ「優れたリーダー」の共通点とは?