歴史上、敵の「残虐行為」を知らしめることは戦術のひとつ

 敵が身の毛もよだつような残忍なことをしていれば、最前線の兵士たちは「聖戦」を掲げて士気は上がる。また、国際的な批判にさらして孤立させることができるからだ。その典型的なケースが、第一次大戦中にイギリスの情報機関が仕掛けたと言われる、ドイツの「死体工場」である。前出の「とてつもない嘘の世界史」から引用させていただく。

<詳細がつねに変わっても、基本の話はつねに同じだった。ドイツ人が死体を束ねて前線から戻り、死体を工場に運び、そこで死体を加工して煮詰め、石鹸、火薬、肥料などさまざまな種類の製品にした。この工場には「偉大なる死体搾取施設」という名称さえあったことが、「タイムズ」紙の記事に書かれた>

 昔の人はピュアだから、そういうデマを簡単に信じちゃったんだなと思う人もいるだろうが、実はこの手法は現代でもそのまま通用することがわかっている。それがほんの30年前にあった「ナイラ証言」である。

 イラクがクウェートに侵攻した1990年、ナイラという少女がアメリカの議会で、イラク軍兵士が新生児を死に至らしめていると涙ながらに証言した。この衝撃的な告発によって、国際社会は今のロシアに対するそれのように、「イラクに制裁を」の大合唱となり、多国籍軍が派遣され、湾岸戦争へと突入していく。

 しかし、程なくして「ナイラ」などという少女が存在しないことが判明する。クウェートから業務として、アメリカ国内の反イラク感情を喚起させるように請け負った世界的PR会社ヒル・アンド・ノウルトンによる「仕込み」だったのである。