米保険会社、Progressive社のCEOは
全従業員と積極的に関わり、企業風土を自ら変革

 ユシーム教授がターナー氏の次に挙げたのが、中西部オハイオ州に本社を置く、米保険業界3番手のProgressive Insurance社で社長/CEOを務める、トリシア・グリフィス氏だ。同氏は2016年の夏、新卒入社後28年で、同社初の女性CEOに抜てきされた。

 彼女が挑んだのは、トップダウン型リーダーシップスタイルからの変革だった。

 従業員の声やアイデアに耳を傾け、インクルーシブ(包摂的)で能動的な、ボトムアップ型組織への転換が、自社や顧客のためになると考えたからだ。

 グリフィス氏はまず、従業員に対し、「トリッシュ」という愛称で自分を呼ぶよう働きかけた。また、壇上でスポットライトを浴びて話すのではなく、自らオフィスを回り、従業員たちと握手し、話しかける。相手の地位は関係ない。ユシーム教授は、グリフィス氏と行動を共にしたが、特筆すべきは、彼女が部下を同行させずに単独で社内を動き回っていることだったという。社員食堂で従業員と同席し、家族構成や趣味、週末の過ごし方を尋ねる。

 そして、「自社の営業が一定の層に切り込めないのはなぜか」「もっと効果的なマーケティング方法はないか」など、従業員からアイデアをもらう。

 よりインクルーシブで、多様性に満ちた組織運営の手法が奏功し、今や同社は、もっともめざましい成長を遂げている米企業の1つだ。グリフィス氏はCEO就任2年後に、米フォーチュン誌の「今年のビジネスパーソン」に選ばれた。

 全従業員と積極的に関わる――。そうした新しいリーダーシップスキルが、「斬新なアイデアの収集や、新規顧客開拓の営業戦略改善につながり、会社運営にひと役買った」と、ユシーム教授は見る。

リーダーシップは「スキルの組み合わせ」
企業の存続は幹部のリスキリングにかかっている

 ゼネラル・エレクトリック(GE)に君臨したジャック・ウェルチ元CEOのような、剛腕なリーダーシップスタイルは、もはや表立って評価されない時代だ。『The Edge』でも触れられているが、同氏の株主重視型のトップダウン式リーダーシップは、20世紀終わりには大きな成果を上げた。だが、市場や人々の考え方は変わりつつある。

 企業の成長が、株主総利回り(TSR)への依存度を減らすにつれ、「意義のある仕事によって利益を上げているか」「投資家のためだけでなく、顧客やコミュニティーの生活向上に役立っているか」「飾りでない、企業文化に根差したパーパス(存在意義)はあるか」といったことが問われるようになったのだ。

「ダイバーシティやインクルージョン、平等という点でリーダーシップを発揮できなければ、現代のリーダーとしては不完全だ」と、ユシーム教授は指摘する。

 企業の存続は、CEOや幹部がリーダーシップのリスキリングを怠らず、新たな「エッジ」へと飛躍できるかどうかにかかっている。