つまり、バイデン大統領にとって、ロシアがウクライナに侵攻したことは、表面的には「憂慮すべきこと」であり「断じて容認できないこと」であったが、同時に「ありがたい」という側面も多分にあったことは忘れてはならない。

 それどころか、詳しくは後述するが、そもそもロシアとウクライナの戦争はアメリカが仕向けたと言っても過言ではないのだ。

バイデン大統領が仕掛けた
ロシア・ウクライナへの「甘いわな」

 思えば、2021年9月1日、バイデン大統領はホワイトハウスで、ゼレンスキー大統領と会談している。この場で、バイデン大統領はウクライナのNATO加盟に、個人的見解としながらも理解を示し、ロシアの侵攻に直面するウクライナに全面支援を約束した。先に述べたように、ウクライナは加盟できないと理解した上でだ。

 それにもかかわらず、会談後に発表された共同声明では、「ウクライナの成功は、民主主義と専制主義の世界的な戦いの中心だ」と位置付けてみせた。つまり、アメリカは完全にウクライナの側に立ち、その安全を重視する考えを打ち出したのである。

 ちなみに、バイデン氏が大統領に就任して以降、ホワイトハウスに招いたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)に次いでゼレンスキー大統領が2人目だった。

 44歳という若きウクライナの大統領は、78歳(当時)の老練な大統領にうまく乗せられたのである。

 筆者は、この流れが、NATOの東方拡大を嫌うプーチン大統領の心に火を付けたとみる。

 もともとアメリカは、ウクライナのNATO加盟には慎重な立場を崩していない。米大統領報道官のジェン・サキもすぐ、「ウクライナには、取らねばならない段階がある」と火消しに走ったが、プーチン大統領を刺激するバイデン大統領の動きは止まらなかった。

 9月20日、バイデン大統領はウクライナを含めた15カ国の多国籍軍による大規模軍事演習を実施した。そして、10月23日には、ウクライナにジャベリン対戦車ミサイル180基を配備した。プーチン大統領がロシア軍をウクライナ国境に展開させたのは、これらの動きを受けた10月下旬のことだ。