「社内プレゼン」は、ビジネスパーソンにとって必須のスキルです。どんなによいアイデアがあっても、組織的な「GOサイン」を得なければ一歩も前に進めることができません。そのためには、説得力のあるプレゼンによって決裁者を説得する技術が不可欠なのです。
そこで役立つのが、ソフトバンク在籍時に孫正義氏から「一発OK」を何度も勝ち取り、独立後、1000社を超える企業で採用された前田鎌利氏の著書『完全版 社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)です。
本書では、孫正義氏をはじめ超一流の経営者を相手に培ってきた「プレゼン資料」の作成ノウハウを、スライド実例を豊富に掲載しながら手取り足取り教えてくれます。読者からは「大事なプレゼンでOKを勝ち取ることができた」「プレゼンに対する苦手意識を克服できた」「効果的なプレゼン資料を短時間で作れるようになった」といった声が多数寄せられています。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、真面目な人ほど「伝わらないプレゼン」をしてしまうメカニズムを説明したうえで、劇的に「わかりやすいプレゼン」になる思考法について解説します。

マジメな人ほど「伝わらないプレゼン」をしてしまう“残念なメカニズム”とは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「あれもこれも説明しよう」としない

 社内プレゼンの資料作成で絶対にやってはならないことがあります。

 それは、「あれもこれも説明しよう」とすることです。

 私たちは、企画や事業内容を検討する際に、数多くのデータを集めます。そして、根拠をしっかりと固めてから、プレゼン資料の作成に着手するわけです。真面目な人ほど、このプロセスを厳密に行うはずです。しかし、これが複雑なプレゼン資料を生み出す原因ともなってしまうから、要注意です。

 というのは、「抜け漏れ」のない資料をつくるために、私たちは、検討過程でかき集めたデータや要素のすべてを「あれもこれも」と盛り込もうとしてしまいがちだからです。その結果、決裁者にとって複雑で非常にわかりににくいプレゼンになってしまうのです。ここには、いわば“真面目の罠”が潜んでいるのです。

 では、どうすればいいのでしょうか?

 情報の取捨選択をするしかありません。

 本編スライドには、決裁者を説得するに足る、最も強力な要素だけを盛り込んで、骨太なロジックだけを示す。それ以外の補足的な要素は、すべてアペンディックス(別添資料)にもっていくのです(下図参照)。

マジメな人ほど「伝わらないプレゼン」をしてしまう“残念なメカニズム”とは?

 そして、プレゼン後に決裁者から「この件は検討しなかったのか?」などと質問されたときに、アペンディックスから該当するスライドを表示して、適宜説明していけばいいのです。

決裁者にとって「最重要な要素」は何か?

 たとえば、小売店チェーンを展開している会社で、店舗売上の低下という課題を解決するために、「店長向けに接客接遇研修」を実施して顧客満足度の向上を図ることを提案するプレゼンをするとしましょう。

 この提案をするためには、売上低迷をもたらしている原因を調査したうえで、「接客接遇の改善を最優先すべき」と判断したはずです。

 顧客アンケートを取るのはもちろん、ミステリーショッパーに調査を依頼したかもしれませんし、現場で働いているスタッフのアンケートも取ったかもしれません。あるいは、インターネット上で自社店舗に関する書き込みを集めて分析したかもしれません。しかし、これらすべての要素を本編スライドに盛り込めば複雑なプレゼンになってしまいます。

 そこで、決裁者にとって最も説得力のある要素だけを本編に盛り込み、それ以外はアペンディックスに収める必要があります。

 私ならば、本編スライドでは「顧客アンケートの結果」のみを示すでしょう。なぜなら、決裁者が最も重視するのが「顧客の声」だからです。そして、それ以外の「ミステリーショッパーの調査結果」「スタッフのアンケート結果」などは補足的なデータですから、これらはすべてアペンディックスに格納するわけです(下図参照)。

マジメな人ほど「伝わらないプレゼン」をしてしまう“残念なメカニズム”とは?

 このように、シンプルなプレゼン資料をつくるうえで重要なのは、「コトの軽重」を見極めることです。

「提案内容を伝えるために最も重要な要素は何か?」「決裁者にとって最も説得力のあるデータは何か?」。そういった視点で企画の検討段階でかき集めた要素の「軽重」を見極める力こそが求められているのです。

決裁者の「疑問」に先回りする

 また、プレゼンを聞いた決裁者が「何を疑問に思うか?」「何を確認したいと思うか?」などについて深く考えを巡らせることも大切です。

 そして、そうしたポイントについて、プレゼン後のディスカッションで決裁者から質問が出たときに、即座に回答できるようにアペンディックスの準備に万全を期しておく必要があります。

 例えば、このプレゼンでは「店長研修の実施」を提案していますが、決裁者は「店長研修の対象店舗の選定方法」について詳細を確認するかもしれません。

 そこで、下図のように、「対象店舗の内、20店舗の店長は半年未満しか店長経験がない」ことを示すアペンディックスを用意しておくとよいでしょう。

 あるいは、「研修を委託するA社以外に候補はなかったのか?」「なぜ、A社を選定したのか?」について確認する決裁者もいるかもしれません。

 そこで、下図のように、複数の候補企業の特徴を比較した表をアペンディックスとして用意しておくとよいでしょう。

 このスライドを示しつつ、「A社を選定した理由」を説明すれば、決裁者の納得度は深まるに違いありません。ちなみに、上図のように、提案者が推している「A社」を赤色の罫線で囲んでおく(あるいはアニメーションで表示する)と、より理解しやすいスライドになるでしょう。

 このように、アペンディックスを充実させつつ、最も重要なスライドだけを本編スライドに入れることによって、シンプルでわかりやすいうえに、強い説得力をもつプレゼンが可能になるのです。

(本稿は、『完全版 社内プレゼンの資料作成術』より一部を抜粋・編集したものです)