初の著書『伝わるチカラ』を上梓するTBSの井上貴博アナウンサー。実はアナウンサーになろうとは1ミリも思っていなかったというのだが、一体どのようにして報道の第一線で勝負する「伝わるチカラ」を培ってきたのだろうか?「地味で華がない」ことを自認する井上アナが実践してきた52のことを初公開! 人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事でもプライベートでも役立つノウハウと、現役アナウンサーならではの葛藤や失敗も赤裸々に綴る。
「伝わる」ための努力をしていますか?
小学校から大学まで、私は野球一筋の青春時代をすごしてきました。
思い返すと、高校生の頃、監督から練習中に「声を出せ!」と叱られることがよくありました。自分では声を出しているつもりなのに、何度も叱られるのです。
「井上、おまえ、ちゃんと声を出したのか?」
「はい、出しました」
「わかった。じゃあ、おまえが声を出したことは、伝わっているのか?」
監督が確認すると、チームメイトは「いえ、聞こえませんでした」と答えます。
「自分では声を出したつもりでも、相手に伝わらなかったら、声を出していないのと同じなんだ!」
当時は「いちいちうるさいな」と思い、心のなかで反発していました。でも、あとから恩師である監督の気持ちがわかるようになってきました。
たしかに、自分では何かを伝えているつもりでも、相手に伝わらなければ意味がありません。重要なのは、「伝える」ことではなく、相手に「伝わる」かどうかなのです。
社会に出てから、それを強く実感するようになりました。
コミュニケーションは、相手に「伝わる」ことで成立します。どんなに泥臭くても不器用でも、伝わったもの勝ちという側面があります。必要な努力があるとすれば、「伝える努力」よりも「伝わるための努力」なのです。
私は縁あってアナウンサーという職業に就いてから、ひたすら「伝わる」ための努力を続けています。
本書では、そんな試行錯誤の経験を通じてわかったことを詳つまびらかにしていくつもりですが、最初に私という人間を知っていただくためにも、少しだけ自分について語ることをお許しください。
【次回に続く】
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた氏の不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんた氏が降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から『Nスタ』平日版の総合司会。2022年4月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年同月、第30回橋田賞受賞。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』を刊行。