報道番組『Nスタ』平日版の総合司会として活躍、いまや“TBSの夕方の顔”ともいえる井上貴博アナウンサー。自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』が13時からスタート。さらに5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する、いま最も勢いに乗っているアナウンサーの一人である。
一方、多くの人の不安や悩みを吹き飛ばす神ツイート”の連投で28万フォロワー突破。初の小説
『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』は増刷を重ね、幅広い層の読者から支持を集めている精神科医Tomy氏。
井上アナの著書に推薦文を寄せたことをきっかけに、今回の対談が実現。ラジオというメディアの魅力と心に与える影響、新ラジオ番組のテーマである「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」のあり方、仕事で結果を出すためのスタンスなどについて語り合った内容を3回にわたってお届けする。

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】「伝わる」話し方に欠かせないたった1つのこと

知られざる番組の舞台裏

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】「伝わる」話し方に欠かせないたった1つのこと井上貴博アナ初の著作『伝わるチカラ』

Tomy:井上さんは4月2日からご自身初となる冠ラジオ番組(井上貴博 土曜日の『あ』)を始められるとのことで、とても楽しみです。

井上貴博(以下、井上):ありがとうございます。この春、入社16年目になりましたが、在京キー局(TBS・日本テレビ・テレビ朝日・テレビ東京・フジテレビ)では、ラジオとテレビの両方を放送する「ラテ兼営」はTBSだけですので、アナウンサーとして、しゃべり手として、ラジオで揉まれたいという思いはずっとありました。

 前々から社内で「ラジオをやらせてほしい」と公言していたんですけど、具体的な話が動き出したのは、昨年の夏でした。社内で旧知のプロデューサーとバッタリ顔を合わせたので、「ラジオをやりたい」と話したところ、「それ本気なの? 本気なら今から企画書を書いて編成に話を通すよ」ということになって……。そこから毎日のように、そのプロデューサーと会って、企画書を練り上げていったんです。

Tomy:それは、急展開ですね。

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー。1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた氏の不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんた氏が降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から『Nスタ』平日版の総合司会。自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタートし、5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する。2022年4月、第30回橋田賞受賞。

井上:ラジオをやるからには、局アナだからこそできる番組をつくりたいと考えていたので、企画を練り上げるだけでなく、スポンサーを集めるところから関わりました。ほかにも、番組ロゴを誰に依頼するか、テーマ曲をどうするかといったことを、番組スタッフと1つひとつ考えていったんです。

Tomy:井上さんは平日の月曜日から金曜日まで夕方の報道番組『Nスタ』に出演していて、すでにお茶の間の顔として活躍されているので、さらにラジオ番組を始めると聞いて、すごく意外な感じがしました。

 アテクシからすると、テレビに出る人は“選ばれし人”みたいなイメージがありますけど、ラジオのリスナーはテレビの視聴者より、番組に近いイメージがあります。

井上:おっしゃるとおりラジオはパーソナリティとリスナーとの距離感がものすごく近いです。テレビを時計がわりに視聴してくださるのもありがたいですけど、ラジオはリスナーのみなさんが前のめりで聴いてくださっている印象が僕にはあって、その分、芯をくった話がしやすいのではないかと考えています。

 番組づくりの面からすると、『Nスタ』は関係スタッフが200人以上いる大所帯ですが、ラジオのスタッフは7~8人なので、それぞれのスタッフとの関係もラジオのほうが圧倒的に濃いです。ラジオは身近な家族と寝食をともにしているような感覚もあって、1つのものをつくり上げられるところに面白みがあると感じています。

どうしたらしゃべりが上手くなるのか?

Tomy:アテクシはけっこうラジオが好きで、自動車の運転中によく聴いています。その地方によって、人気のラジオ番組がありますよね。アテクシの地元にも長年活躍している名物パーソナリティがいて、テレビでは言えないようなディープな話をしたりして面白いんですけど、それが問題視されたなんて話を聞いたことがないし、人気も落ちずに長寿番組が続いている。そういう独特の空気感がラジオにはあるように思います。

井上:Tomy先生は、職場の同僚と話すときの言葉づかいと、地元の友だちと話すときの言葉づかいって、違いませんか?

Tomy:それは違いますね。

井上:テレビとラジオの違いは、その感じに似ているかもしれません。ラジオのほうが長く話せるだけでなく、より踏み込んでしゃべれるんじゃないかと想像していますし、踏み込みたいとも思っています。当然、誰かを傷つけるようなことはしたくないですし、間違っていたら素直に謝るつもりですけど。

 踏み込んでみた結果、お叱りを受けたら、それも真摯に受け止めようと思っています。ラジオという初体験のメディアで実験ができるという意味では、とてもワクワクしています。

Tomy:ラジオ番組って、毎回原稿を用意するわけじゃないですよね?

井上:僕の番組では、台本は、ほぼないです。

Tomy:それがすごいと思います。お笑いコンビ・オアシズの大久保佳代子さんとラジオ番組で対談したことがあるんですけど、あとで友人に「どうだった?」と感想を尋ねたら、「やっぱり大久保さんはプロだから『えー』とか『あー』とか言わなくて聞きやすかった」と言われました(苦笑)。

 アテクシは素人だから、無駄な言葉がちょくちょく入ったり、中途半端な間があったりして、きっとプロのしゃべり手に比べて聞き取りにくいと思います。今しゃべっていても、井上さんのお話には全く無駄がないし、ヘンな間もない。何をどうすれば、そんなふうにしゃべれるのか、教えてほしいです。

井上:発信したいこと、伝えたいことが1つベースにあるかどうかは大きいです。

Tomy:というと、イメージマップとかメモを事前に書いたりしているんですか?

井上:話の道しるべくらいは、箇条書きで書くようにはします。

Tomy:ある程度ロジカルにしゃべらないと、リスナーの頭の中に情報が入ってこないですよね。スッと頭に入ってくるということは、ロジカルにしゃべっているはずなんだけど、それを原稿なしでやるのが信じられないです。

 アテクシもよくしゃべるほうだし、毎週5回、音声メディアのvoicyを配信していますし、著作も多数あって言語能力に関してはそこそこ自信があるんですけど、とてもじゃないけど、そんな話し方はできないです。一般の人の会話って、途中で話すことがなくなったり、脇にそれたりするものですよね。

井上:それに関しては、才能ではなくて訓練で強化できます。僕はもともとしゃべるのは得意ではないです。プライベートで友達と集まって飲んでも、基本的にはいつも聞き役なんです。僕の学生時代を知る友人には、いまだに「なんでおまえがアナウンサーやってるの?」って言われるくらいです。