「お前はスナイパー(狙撃兵)か?」。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ郊外の検問所に配置された重装備のロシア兵は、同市から脱出しようとしていたアリーナ・ベスクロブナさん(31)の車の中をのぞき込み、こう尋ねた。「違います」。彼女は数週間にわたる地下シェルターでの暮らしで黒ずんだ自分の指に目を落としながら答えた。インタビューに応じたベスクロブナさんによると、彼女とほかの31人(うち6人は子ども)は、2月下旬から3月末まで1カ月以上にわたって友人宅の地下で集団生活を送っていた。激戦地となっているマリウポリに降り注ぐロケット弾や銃弾から逃れるためだ。低空飛行の戦闘機が同市を爆撃した際には、彼女らは出入り口から離れ、身を縮めた。わずかな光が漏れただけで隠れ場所が分かって攻撃目標になることを恐れていた。古いドアをベッド代わりに、バケツをトイレとして使った。氷点下の寒さの中、たき火で時間をかけてパスタをゆでた。