東京都現代美術館で「井上泰幸展」が6月19日まで開催されている。映画「シン・ウルトラマン」が公開されて、またまたミニチュア特撮時代の円谷英二監督が注目されているが、円谷監督の肩書は「特技監督」だった。この展覧会の主役「特撮美術監督」の存在は知らなかったが、井上泰幸監督は東宝の特撮映画の最初期、つまり「ゴジラ」や「ラドン」のころから美術担当として活躍してきたすごいアーティストだった。(文中敬称略)(コラムニスト 坪井賢一)

自分史をたどりながら
「ゴジラ」特撮映画史を追体験

「空の大怪獣ラドン」のセットを復元「空の大怪獣ラドン」のセットを復元 Photo by Kenichi Tsuboi

 自慢じゃないが、筆者は「ゴジラ」第1作が公開された1954年生まれである。つまり、ゴジラと同い年なのだ。したがって、物心がついたころから東宝の特撮怪獣映画とともに少年時代を過ごしてきたのである。

 しかし、当たり前だが生まれた年に「ゴジラ」を見たわけではない。「ゴジラの逆襲」(1955)も「空の大怪獣ラドン」(1956)も見た気になっているが、1歳か2歳だから覚えているわけがない。しかし、映像の記憶は鮮明である。おそらく後年、テレビ放映を何度も見ていたからだろう。

 それが今回、井上泰幸(1922~2012)の特撮美術をほぼ年代順に展示したこの展覧会を見て回り、脳裏に刻印された特撮シーンがどうして記憶に残っているのか、また、製作者がどこに注力して何を残そうとしたのか、よくわかった。自分史をたどりながら特撮映画史を追体験するような展覧会で、楽しくてまったく飽きることがなかった(きっと筆者と同世代の人にとっても、そうなるはずだ)。

 さて、次ページからは本題である、井上泰幸の生涯と展覧会の見どころについて触れていく。