『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんは昨年「独学」「執筆」に加えて「復刊」をライフワークとしていくことをTwitterで宣言した。この連載「読書猿が推す『良書復刊』プロジェクト」では、読書猿さんが推す復刊本や、復刊に関係する話を紹介していく。
この5月より、国会図書館による「個人向けデジタル化資料送信サービス」がスタートする。ごく簡単に説明すると「国会図書館デジタルコレクション所蔵の絶版本や雑誌が、自宅で読み放題になる無料サービス」だ。読書猿さんは、このニュースは全国の独学者にとっても福音であると話す。今回は、元司書でレファレンス担当だった書物蔵さんを対談相手に迎え、同サービスの使いこなし方、楽しみ方を語ってもらった。(取材・執筆/藤田美菜子)

第1回 元司書が語る!「国立国会図書館の絶版本が自宅で読み放題」がスゴい
第2回 単なる「雑学好き」で終わる人と、本当の教養を手に入れる人の差

本好きが激推し!無料で読める「国立国会図書館」のお宝本Photo: Adobe Stock

半世紀ぶりによみがえる『世界の名著』

――第1回第2回に続く今回は、「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下デジコレ)の資料の中から、おふたりが特に注目する「オススメ本」について伺いたいと思います。

読書猿:まず挙げたいのが、中央公論社の『世界の名著』シリーズ(1966年~)。現在、新書版の「中公クラシックス」に入っているような、古今東西の名著(哲学・思想系)が読めます(今、中公クラシックスで読めるものは、「絶版」じゃないので配信されないと思いますが)。ピタゴラスからウィトゲンシュタインまで、メジャーどころはほぼカバーされていますね。このシリーズは「高校生でも読める」ことをコンセプトにしていたので、翻訳が読みやすいのも特徴です。

書物蔵『世界の名著』は、人文系の研究者や学生にとっては基本常識のようなもの。教養書としては有用なのに、最先端の研究ではないために、忘れられていたようなところがありますね。

 当時の日本では、英語の本でもドイツ語の本でも、あらゆる教養書・基本書を翻訳して日本語で読める方向になっていました。歴史学者の山内昌之が「(英語以外に)イブン・ハルドゥーンの著作が母国語で読める国なんて、日本くらいのものだ」と話していたくらい、われわれは世界も羨む資産を持っていたわけです。

読書猿:その資産が半世紀ぶりによみがえる。1960~70年代は「一家に一セット」みたいな全集企画が出版業界で流行っていたので、叢書やシリーズ物が数多く登場しました。あるテーマを「塊」として読むにはぴったりだし、かといって家に置いておくとすごく場所を取るので、こうしてインターネットで読めるようになって、改めてその良さが生きるでしょう。まるで全集の時代とデジタルの時代がタイムマシンでつながったかのような感慨を覚えますね。

 百科事典もそうです。当時は図解が豊富な子ども向けの事典が充実していました。デジコレに入っている中では、玉川大学の出版部が出していた『玉川児童百科大辞典』(誠文堂新光社、1967)、講談社の『スクール図解百科事典』(1966)などがおすすめです。

マニアックな専門辞典の宝庫

書物蔵:私からのおすすめは、『大辞典(縮刷版)』(平凡社、1953年~1954年)。いま、日本で最大の国語辞典といえば、通称「日国(にっこく)」こと小学館の『日本国語大辞典』ですが、その前身にあたるのがこの辞典です。収録語彙の多さが特徴ですね。

読書猿:最強ですよ。「日国」に収録されているのが50万語なのに対して、『大辞典(縮刷版)』は70万語なんです。方言や人名・地名などの固有名詞、近接語族の語彙など、考えられるありとあらゆる語彙を集めているので。

書物蔵:「日国」のほうは、ジャパンナレッジ(学校・研究機関向けのオンライン辞書・事典サイト)に収録されているので、大学のアカウントで私もよく利用しますが、なかなか個人が気軽に契約できるものでもありません。その点、『大辞典』が自宅で無料で使えるようになるのは大きいですね。

 もうひとつ、意外と汎用性が高いのが『川柳大辞典』(日文社、1955年)。江戸時代の川柳が題材ごとに収録されているもので、当時の風物が簡単な説明と共に紹介されており、江戸時代の百科事典のような感覚で使えます。川柳とセットなので、その事柄がどういう扱いのものなのか――例えば上品なのか、下品なのか――といったことも感覚的にわかるのがいいですね。

 昔の辞典の中には、個人が全生涯をかけてつくったデータベースみたいなものも少なくありません。例えば『現代短歌分類辞典』(イソラベラ社、1954~)は、親子2代で40年がかりで編み上げた辞典で、明治から昭和にかけての短歌を、そこに使われている言葉から引くことができるというもの。全200冊くらいあって、後半はデジタル化が追いついていません。

「人文知は役に立つ」をやってみせたい

読書猿:こういう巨大すぎるレファレンスは、まったく儲からないけれども、編者にとっては人生を賭けてやるようなプロジェクトです。その成果から何を引き出すか、どう使うかが、いまわれわれに問われていると感じます。

 誰もが忘れていたことを掘り起こしたり、いまとは違う在り様があったことを示したりするのが人文学の仕事です。それをサポートする仕組みを、ほかならぬ国会図書館がつくってくれたのだから、受けて立ちたい。

 世間では、「人文系」というと役に立たないものの代名詞みたいな扱いをされてバカにされてますけど、書き言葉を介して古今東西の知の蓄積にアクセスできる技術が役に立たないわけがない。人文知は実践知に連なるものなんです。ただいくら説明しても分からない人は永遠に分からないんで、やってみせた方がよいかと思って『大全』というタイトルの実用書を書いてきたところはあります。

書物蔵:例えば、NHKの「ファミリーヒストリー」のような家系図調査のニーズはあるんじゃないでしょうか。

 今回、公開される資料の中にも使えそうなレファレンスブックがあるんですよ。『寛政重修諸家譜』といって、江戸時代に幕府が大名家、旗本全員の家譜をつくらせたものです。ご先祖に武士がいれば、結構ここにつながる。オリジナルは崩し字ですが、活字に起こしてあるので現代人も読めます。いまの人のニーズに合う資料も、それなりにあると思いますね。

読書猿:全国の市町村史も使えそうですね。これまではほとんどが「図書館送信限定」でしたが、今回膨大に公開されています。ちなみに公開される町史で一番新しいものは『金武町史. 第2巻 戦争・本編』(金武町教育委員会、2002年)です。

 市町村史とは、自治体の依頼で歴史研究者が監修し、郷土史家などからも協力を得つつ、史料探しから行ってまとめた、その地域限定の歴史書です。単にその地域でどんな出来事があったのかを通年でまとめているだけではなく、地理や民族伝承などの情報も盛り込み、発掘した史料の書き起こしなども収録した、いわば「エリア限定百科事典」です。ある地域について知りたいことがあれば、最初に見るべきレファレンス書です。

――まだまだリストは尽きないようですが、今後さらに利用してみると、また新たな注目本が出てきそうですね。

書物蔵:そうですね。使い方についても、新しい工夫や注意点が出てくるかもしれない。

読書猿:そのときはぜひ続編をやりましょう。

書物蔵(しょもつぐら)
2005年からブログ「書物蔵」を始める。その後、某図書館でレファレンス業務に携わった。専門は図書館史、近代出版史。共著に『本のリストの本』(創元社)、監修に『昭和前期蒐書家リスト:趣味人・在野研究者・学者4500人』(同人誌)がある。『近代出版研究』(皓星社発売)にも携わる。
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