図書館イメージ「うずもれた過去の科学的知識を万人に無償で提供するために、電子的文書として提供します」――ウェブ「科学図書館」には、今となってはここでしか読めないような名著が多数所蔵されている Photo:PIXTA

たった1人でコツコツと、15年以上かけて科学書の図書館を構築してきた人がいる。偶然、ダイヤモンド社の社員がネット上で発見し、教えてくれたのである。リアル図書館ではなく、「科学図書館」と名付けられたウェブサイトで、蔵書は約500点だ。ウェブ上でだれでも無料で閲覧できる。つまり全点の全文がPDFで公開されているのである。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)

500冊の入力は
手作業で仕上げる

 人はだれでも「社会の役に立つことをしたい」と、ほんの少しだけ考えているはずだ。とくに定年を過ぎ、さて何をしようかと思案しているシニア層の脳裏をときどきよぎっているのではないだろうか。このウェブサイトの科学図書館は、1人のシニアが長年の思いを実現したものである。

 約500点の蔵書はすべて著作権者の許諾をきっちり取ったものだそうだ。国会図書館のデジタルコレクションではすでに相当数の書物が公開されているが、写真をPDF化しており、不鮮明なものが多く、プリントすると文字を読めない場合もある。

 科学図書館は、数式、記号や外国語などを正確に、そして美しく表示できるTeX(テフ)という組版システムを使って入力しているため、実に読みやすい。

 しかし文字を入力する作業はOCR(画像認識)によるスキャンも使うが、最終的には手作業だから、科学図書館の館長は連日収蔵する書物と格闘している。蔵書は日本の科学史・科学哲学者の古典的な名著を主軸に、ポアンカレ、マックス・プランク、アインシュタイン、ダーウィン、パストゥールといった科学史上に名高い人物の著作を収蔵・公開している。

 ところが、蔵書目録を一覧すると、服部之総『歴史記述の理論』、九鬼周造『偶然化の論理』、久米邦武『神道は祭典の古俗』といった人文系の書物もある。しかもリベラルな思想家たちだ。この科学図書館の館長はサイエンスに関するマニアックなコレクターというわけではなさそうだ。

 そこで、メールで科学図書館にコンタクトし、館長の梅田宗宏さんに会うことになった。東京郊外の駅頭で待ち合わせしていると、やがて、リュックを背負った黒いTシャツ姿で、にこやかな梅田さんが現れた。