心理学者のジョン・T・カシオポは、孤独感の不快さは、飢えや渇きや身体的な痛みの不愉快さにも匹敵する、と言います。人間は社会的な生きものであり、つながりなしには心身が参ってしまうのです。慢性的に孤独な人々は、若くして死に至るリスクが高く、免疫機能が低下するおそれもあります。

 これはすべて、生物としての進化によるものです。わたしたちの初期の祖先は、長いあいだひとりでいるとリスクにさらされる、つまり、外敵に襲われる危険がありました。けれども集団のなかにいれば、危険から守られる確率は高まります。

 このような、他者といることで安心感を得ようとする人間の基本的な本能は、そのころから変わっていません。したがってわたしたちは、飢えから食べものを、渇きから飲みものを求めるように、孤独感から仲間を見つけようとします。人はみな、何かに帰属したいという欲求があり、この欲求が満たされないと、心身に悪影響が出始めるのです。

おしゃべりの心理的効果

 だれかと話すと、気分は確実に変わります。シカゴ大学の研究者が、朝の通勤列車で乗り合わせた人と話をするとどんな気分になるか、人々に試してもらいました。

 ほとんどの人は、「知らない人と話すのは気まずい」と考えていましたが、実際はその逆でした。実験のためにランダムに選ばれた被験者が、同じ列車に乗っている人に話しかけて雑談をしたところ、「今までになくポジティブな気分で通勤時間を過ごせた」というのです。

 それでは、話すと気分が良くなるなら、なぜ多くの人は通勤中に黙っているのでしょうか?その理由は、人間が「他者のつながりへの関心を低く見積もっている」からだと、この研究の執筆者はいいます。バスや列車のなかなどさまざまな場所で、わたしたちは他人の沈黙を「つながりを避けている」と解釈しています。沈黙を自分への無関心と見なして、かかわるのをためらってしまうのです。

孤独感は人の思考回路を変える

 孤独な時間が長くなると、進化の生存メカニズムが働き、わたしたちは不安を感じ始めます。「脅威」を感じて警戒しだすのです。けれども、現代社会における脅威は、もはやジャングルに潜む襲撃者でも動物でもありません。もっとずっとささいなもの――たとえば、「ズーム会議でだれかが不機嫌そうな顔をしている」といった、不安を呼び起こす漠然とした状況――になります。

 孤独なとき、人は他人のなんでもない表情をネガティブに受け取り、「自分は嫌われている」などと思い込みやすくなります。研究においても、孤独な人は身のまわりで生じる社会的脅威に強く反応し、ちょっとしたことで「拒絶されている」と思ったり、自分や他者への評価が低くなったりするとされています。